
㈱ワークスアプリケーションズ ビジネス・サポート・インフラ ディパートメント ゼネラルマネージャー
小島豪洋氏
1985年 立教大学社会学部卒業
1989年 現在の日本ヒューレット・パッカード人事への配属を希望して入社、13年勤務
2000年 当時120人規模だったワークスアプリケーションズに入社、人事業務専任の第1号社員となる。同社では「問題解決能力発掘インターンシップ」などの革新的な人事採用精度の構築を担当。現在は、優秀な人材の発掘・採用と同時に、採用した社員がたえずチャレンジしたくなる社内環境の整備を目指して、人事・総務の両部門を統括している。管理型ではなく現場型人事責任者として、牧野CEOの右腕的な存在

株式会社イー・ファルコン 代表取締役社長
志村日出男
※登場する方の所属企業、役職等は当時のものとなります。
第1部 「株式会社ワークスアプリケーションズが取り組むワークスウェイの浸透と多面観察の20年」~人材採用へのこだわりと実践~
360度アセスメントや多面観察をマネジメント人材の能力開発や評価だけでなく、全社的な人材開発やバリュー・ウエイの浸透に活用しようとしている企業が増えている。
一方で、導入の検討や運用にあたっては、各社固有の目指す姿実現に向け、いかに活用し効果をあげるかという本質の議論や効果の検証をするよりも、システム選定や運用業務に時間を取られてしまうことも少なくない。
本セミナーでは、目指す姿の実現に向けて、一貫したポリシーで20年間、多面観察を行っているワークスアプリケーションズ社の取組みを共有頂きながら、導入、運用の全体像とそのツボを明らかにした。
1.日本のITソフト会社を変えたい
ワークスアプリケーションズは、もともとは1996年7月に旗揚げした会社です。現在の牧野CEOは若い頃、ソフト会社の役員から転じ、フリーのITコンサルタントをしていた時に、欧米にわたり海外パッケージを日本に導入してローカライズするという仕事をしていました。カスタマイズしてしまうと、パッケージを低コストで早期投入することが損なわれてもったいない。その一方で、日本の大手企業ほどスクラッチで業務系のシステムを作ることが大前提ですが、時間もかかるしメンターズフィーもかかるのでそれを何とか変えられないか、日本の大手企業に使っていただけるようなパッケージを日本発で作りたいというのがそもそものきっかけです。
現在は20期目に入り、システム分野では皆さんに認知されてきていると思います。おかげさまで4年ほど前、上海をはじめとしてシンガポール、まだ規模は小さいですがアメリカにも営業拠点を設置しまして、つい最近はチェンナイ(インド)にあるソフト会社をグループ化しています。日本のIT会社がBtoCをメインとしている中で、BtoBではトップクラスで取り上げられていただいています。
また、「働きがいのある会社」(世界最大級意識調査機関Great Place to Work)では8年連続でランクインされていまして、2016年の大規模クラスの企業の中でマイクロソフト、アメックスに次いで第3位に入っています。
弊社は人材採用に非常に大きなこだわりを持っていまして、日本のIT系システムの投資効率の低さを何とかしたいというのが設立時の大きな企業理念でした。もう一つは、日本の企業が組織だって動くというのはいいことですが、クリティカルワークが少なく、高度なルーティンワークばかりで、「ゼロから1を生み出す」ようなタイプの人材が活躍しにくいという状況を何とか変えたい。日本発のソフト会社が海外で評価されないという状況を、人材を通じて変えたいとのが経営者の強い思いです。

2.優秀な人材を獲得、活躍のために
優秀な人材を獲得するための施策の一つがインターンシップ。最近、一般的にはワンデーインターンシップなどが話題になっていますが、私どもが2002年からやっているのは4週間にわたる課題解決型のインターンシップです。就労体験体系、就業体験ではなく、スタンドアローン方式で課題がいくつか与えられ、課題がクリアしたら3年後、5年後(当時)までの入社パスを出すというようことで話題になりました。優秀な人材が優秀な人材を呼ぶというように、採用条件におけるブランディングもできつつあるのではないかと思います。インターンシップだけで採用するのは、規模の観点で限界があるので、優秀な人材を求めて、最近は海外の採用にも力を入れています。入社時は普通の選考でありながら、当初はグループ会社に所属、インターンシップのパスホルダーと一緒に研修をさせ、一定の水準になると配属にこぎつけられるという独特な採用活動も導入しています。今年は4月に1,000名位の新卒採用を予定していますので、受け入れ側の社員としては2月の段階になってもどうしたものかと悩んでいます。海外では年間200名位を採用、今年は300名を超えたいと考えていますが、核となるのは当初からの中国の北京大学や精華大学、次にはインドのIITといったところに常時キャンパスリクルーティングを仕掛けています。かなり急激に海外採用を増やしているので、弊社の文化や企業理念をいかにトランスして定着させるかということが課題になっています。
このように相当のコストとマンパワーをかけて採用している人材に対して、どのように文化や風土をつくっていくか、①ワークスの文化については、CEOが現在は開発と管理系分野を横断して見ています。CEOは研修より採用を重視しており、優秀な人材は、環境を提供すれば、自ら伸びると思っているところがあります。スキル教育は現場でやればいいですが、反対に、理念教育や文化への理解は欠かせないということで、むしろ、重視しています。
その一つが《プロセス主義》で、成果を否定はしないが、成果に至るまでのプロセスを重視。「どれだけ頑張ったか」ではなく「どれだけ思考したか」、もっというとゼロベースで本質に立って考えられたか。失敗してもプロセスを振り返れば成功に至る改善点の検証がかけられるという意味でもプロセスが重要になります。次は、《失敗を許容する文化》。私もCEOも50代で、普通のIT系ベンチャーだとそろそろ引退がよぎりますが、いまだにチャレンジすべきだという考えで、そういう風土作りを初期からやっているところがあります。右から左に同じことを繰り返すのは仕事ではなくて作業であって、ちょっとしたことでも何かを生みだしたり改善したりという意識を持つこと。チャレンジとかブレークスルーとかいうと大きくなりますが、弊社では「プチブレイク」という言葉を使って何かを変える、生み出すことを奨励しています。ただ、チャレンジすると失敗もつきものなわけで、いろいろ策を考えた上でうまくいかなかったことは評価しよう、失敗は許容しようというわけです。三つめは《若手にこそ最高難度の仕事を》。誰でも出来る仕事で様子を見てみようではなくて、最初から難しい仕事をやらせていろいろ思考させ、結果が出ないのだったら仕事のレベルを落とす、できるのならさらに難しいこともできるはずというのが弊社の考え方です。最後は《エンパワーメント》。弊社は1996年に設立してから10年間、トップの3人以外は役職者をおいていませんでした。ベンチャー企業が華々しく出発しながら、急いで中間管理職をおいて途中で失速するケースが多いという事例を経営者なりに考えたからです。中間管理職によって部下が規定されてしまうより、好き勝手にやらせた方が本当の実力が分かるのではないか。後ろから上司にカバーしてもらうよりも、自分でやりたいことを考えてやる。これが風土となって、いまだにプレイでひっぱっていくというプレイング型マネジメントが強くなっています。
3.設立時から「多面評価」を導入
次に、本日の主題である②相互多面評価に移りたいと思います。8人で設立した1996年の段階から、評価は「多面評価」と決め、いまだに評価のメインの手法としてやっています。多面評価は評価としては定着しないとされていたので、私が転職した時に経営者にそういう質問をしたのですが、いやそうではない、メイン教官よりはお互いに切磋琢磨している仲間内の方がお互いシビアに見ている。上司一人が一方的に評価しても、相性や好き嫌いが多少出かねないのであれば、10人から評価をもらって平均値をとった方が程よいところに落ち着くのではないか、と。当初はお互いに評価したものを最終的に人事が集約するという全社の中での偏差値をつけたのですが、さすがに10年経って中間管理職も増えたので、今はそれぞれ所属するクラスごとに多面評価を行っています。その中には上司の評価も入っていますが、その比率は低くなっています。
もう少し最近の多面評価のやり方を説明しますと、まず評価者指名シート紙を対象全社員に配布。そこには対象全社員の名前がリストアップされ、自分の仕事とかかわっていて自分自身を評価してもらいたい社員を直属の上司以外から指名する。ライン以外の上位のマネジメントを指名することも出来ます。同時に半年間の自分のアピールしたい業績も記入し、いったん人事が集約して、担当のゼネラルマネージャー(以下、GM)にフィードバックし、GMはその指名内容をチェックし、必要に応じて、本人にフィードバックし、違和感があれば、なら修正を促すという流れです。それを再び人事が集約し、指名された社員たちがその人数分の名が入った評価シートがわたされるので、評価基準の定義にもとづいた全員の評価を行う。このように、集約とチェックと修正を繰り返していくので、一度評価を始めると、最低2か月以上かかるという大変なものです。
全社共通の理念を体現するための「ワークスウエイ」としては、エッジのきいた言葉を用い、他責NG(他の人のせいにしない)、なぜなぜ思考(物事を本質から考える)をはじめ、コンティンジェンシープラン、ブレークスルー、ヒューマンスキルの5項目を評価軸に使用しています。弊社はマネジメントツールとしてのMBOを活用していますが、プロセス重視の考え方からMBOそのものは評価の対象にはしていません。目標設定自体が目的になってしまうようなやり方は弊社のような企業にはなじまないからです。
評価は何のためにやるかというと、一番大きいのは報酬と昇給、それに加えて評価結果のフィードバックも重要な課題となっています。「気づき」のためのきっかけづくりというふうにもいえます。

4.考え方の基本はベンチャー
さらに、経営陣と社員のツーウェイコミュニケーションも重視しています。新しく入ってきた社員に対して、経営の考え方や風土を経営陣が直接講義する「MY COMPANY講座」、経営陣の方針や施策と社員にズレがないかを確認する全社員からの「月報」、設立以来毎月開催されている全社集会(海外拠点にも同時中継)の「CLOWS」を通し、③「納得感」の醸成の取り組みを行っています。さらに、優秀な女性社員がキャリアを継続できるための仕組み「ワークスミルククラブ」、優秀な社員に対し出戻りの権利を与える制度「カムバック・パス」など、④働き続けられる環境づくりもあります。「カムバック・パス」は退職後3年以内であれば原則として退職前と同じ待遇で再入社の権利を与える制度で、私自身もこの経験者です。これに関しては、日本の伝統的な企業が私宛てに話を聞かせてほしいという事例が増えていまして、人材マーケットの流れもあって日本企業も随分変化しているように思います。
また、経営者が次代を考える時期に来ていることもあって、会社の成長に合わせた組織体系と⑤社内コミュニケーションも課題となっています。「ピラミッド組織」(中間管理職をおかない「フラット型組織」は600名で転換しました)、「パートナー制度」(スピード感のある経営判断)、「アドミンスタッフ」(社内コミュニケーションと文化の浸透をミッションとした経営者直轄のスタッフ)などがそれに該当します。
弊社はイノベーションを起こし続ける企業として、経営者ももう一度大きなチャレンジを始めています。考え方の基本はベンチャー。さすがに3000人の規模を超えるとベンチャー企業とはイメージしにくいかもしれませんが、「メガベンチャー」として、グローバル人材の無限採用で世界にチャレンジを続けていきたいと考えています。
第2部「多面観察の事例紹介とトークディスカッション」~多面観察アセスのトレンドとポイント~
第二部では、多面観察に関する整理をしながら、現在の位置づけやトレンドがどうなっているかに関してお伝えします。
弊社は2000年創業ですので、ワークスアプリケーションズさんとは5年ほどのズレがあります。創業15年に当たる昨年の10月、「これまで何をやってきたか、今我々は何者なのか、どこに向かっていくか」ということを再考するタイミングが来たということで、当社自身のブランディングを手掛けました。従来の「見える化」「できる化」に代わり、人と組織を深く見つめ、考え抜く“Sight on, Think up,”を企業理念に掲げ、今まで我々がやってきたことを強く意識し、皆様にどういう価値提供ができるかに一丸となって取り組んでいます。
1.多面観察活用の推移
まず、多面観察の歴史的背景ですが、これはとても古いもので、1940年頃、第二次大戦中のドイツ軍で実施されたのが最初です。兵士の持っている力を多角的な視点の観察で評価することに主眼がありました。それが民間企業に導入されたのは1960年頃。よく360度アセスメントを「評価」より「評判」とする見方がありますが、その頃はまさに「オピニオンサーベイ=評判」という位置づけでした。
その後、もっと個人の能力を見出そうというという機運の中で、1990年頃からは「能力開発」という立場で使われるようになってきました。
この年表はアメリカでの変遷がベースになっていますのが、日本ではアメリカのメソッドがだいたい10年遅れで広がると言われていますから、ワークスアプリケーションズさんが1996年の創立当初から多面観察をされていたというのは、かなり先進的な取り組みだったと思われます。
これまで弊社ではいろいろな形で多面観察のご支援をさせていただいていますが、ここにきて少し様相が変わってきています。
日本では、多面観察を「評価」で使うのは難しいので挫折しているという会社も少なくありません。むしろ「理念浸透」に対して活用するかという話が増えています。また、マネジメントなど特定の階層だけでなく、ワークスアプリケーションズさんのように全員を対象にウエイを使って実施する方向に近づいている印象があります。
2.多面観察の活用の仕方
多面観察の使われ方をマップ上(下記図1.を参照)で整理してみると、バリエーションが広いことが分かります(縦軸が評価への反映で「評価に使う」と「評価に使わない」、横軸が対象者で「マネジメント」と「全社員」)。今日お話いただいたワークスアプリケーションズさんは左上の全社員対象に評価に使う、です。
よく聞くのは右下のマネジメント対象で評価に使わないですが、最近、我々が実感しているのは左下の全社員対象にしているが評価に使わない、が徐々に増えていることです。
さて、多面観察には、「どんな企業になってほしいのか」という思いが潜んでいるのではないかと思います。「評価に使う」ところでは、皆が相互に評価しあうことによって「公正な組織」を作っていきたい。一方、「評価に使わない」でも、マネジメント対象なら「発展する組織」、全社員対象なら「活力ある組織」への思いがあると感じています。
フィードバックについては、先ほど小島さんがいろいろなやり方があるとおっしゃっていましたが、一般的には多面観察の実施とフィードバックがセットになっているケースが多いと思います。
なぜフィードバックを行うのかというと、目標に向かって進む時に周りからのアドバイスがないとうまく進めない、つまりゴールに到達するための情報だといわれています。ただ、人はプライドや人から何か言われることの抵抗感があって、うまくフィードバックを受け取れないこともあって、360度アセスメントをフィードバックする際の一番大きな問題がここにあります。
フィードバックでは、自らが安住する「快適ゾーン」からいかに抜け出し成長に向かってどう進んでいくのかが大きなポイントです。
そこで、(多面観察アセスメントに限らず、人材開発で行っている施策のキーワードとして)「マインドセット」が重要になってきます。

3.マインドセットと問題解決
「マインドセット」とは、アメリカのキャロル・ドゥエックが定義するところでは、「知能感(マインドセット)」=「自分の能力や知能に対する信念」によって学習のあり方、その人のその後の人生が決まってしまうということになります。ここで多面観察を再定義すると、対象者が「会社を良くする」という目標に向け、効果的なフィードバックによって、自分を信じ「すべてが可能だ」というマインドセットを持ち、それぞれの課題を見つけて解決に取り組むことが重要です。目標とマインドセットが持てないと、否定感や人間関係がギクシャクしてくるという悪い面だけが目立ってきます。
マインドセットと問題解決のために多面観察を実施するポイントは、大きく以下6つがあげられます。
1.実現したいことは何か? (会社によって異なるが、実現したい姿をその姿と課題とともに明らかにすることが重要)
2.解決しなければならない問題とは? (評価、登用、育成など人事マター)
3.現実を見据えた時、ゴールは何か? (何ができれば達成なのか)
4.具体的にどう進めるか? (独自性と有期性の中で進行)
5.効果を出すための仕掛けは? (実施後の計画)
6.目的の達成状況が測れるか? (何が変わったかを把握)
多面観察アセスメントというのは情報量が多いアセスメントになるので、その意味性を解釈するのは非常に難しいところで、本人がその内容を読み解けるようにすると同時に、目的がきちんと果たせたかを見分けられるような正確な分析能力が必要になってきます。本人と周囲のギャップとか、本人の得点や通期でどう変わったのか、などは見えてきても、組織の中での関係性はなかなか見えてこない。本人の評価も周囲の評価も高くても、ふたを開けてみると職場でパワハラが起きていたというようなことです。経年で周囲の評価が下がっていることを設問レベルで詳しくみていくと、仕事の距離感が変化していることが見えてきたりします。そういうところまで情報として見抜くことが重要です。
イー・ファルコンは300社以上の実績をもとに、この6つのポイントを軸に
以下のように引き続きご支援を続けていきたいと思います。
1.実現したいことは何か? →マネジメント~全社員のあるべき姿へ
2.解決しなければならない問題とは? →各社人事の思いに寄り添い
3.現実を見据えた時、ゴールは何か? →300社以上の現場での知見を活かして
4.具体的にどう進めるか? →高度なプロジェクトマネジメントと
5.効果を出すための仕掛けは? →最適な設問、個人向けフィードバックシート、研修、+αで
6.目的の達成状況が測れるか? →気づきにあふれた目的の達成を得る
閉会の挨拶 ~あるべき姿を具現化していくお手伝いを~
今日の「第19回進化の会」は多面観察を話題に進めてきましたが、そのゴールとしてのマインドセット、あるいは理念の浸透にしても、すべての起点になるのはその企業のあるべき姿、あるいはアイデンティティの探求にあるのではないかと思います。法人企業のアイデンティティを考える時にいつも私の胸にあるフレーズは、我々はどこから来たのか、我々は何者か、そして我々はどこに行くのか――。これは150年ほど前にある西洋の画家が自分の作品のタイトルにしたものですが、どこから来てどこに行くのかという、この本源的な問いに向き合って答えていくことがあらゆる営みの出発点になるのではないでしょうか。
今から3年前、私が社長の役割を担うことが決まった時に最初に取り組んだのは、創業からその当時(創業12年)に至るまでの間の事業変遷を再確認する作業でした。私も創立メンバーだったので作業そのものは容易でしたが、ただ事業を時系列的に並べただけでは、その事業をなぜやったか、なぜ生まれかという説明はつかなかったのです。各時代に生んだビジネスモデルの考え方や動き方の順序を追ってみると、筋道の傾向性や各時代の特徴〈ビジネスのウエイ〉が見えてきました。なぜその考え方や動き方を選んだのかに目を向けると、これを大事にしようというその時代の信条〈ビジネスのポリシー〉というものがあったように思います。そういうふうにその信条を生んだ根源を突き進めていくと、ビジネスにおいて何を優先させるのか、何だけは手放してはいけないと考えるのか、価値判断のよりどころとでもいうべきもの〈ビジネスのフィロソフィー〉が見えてきたように思います。
自らの歩みというのは、こうした回答性を持った構造である可能性を感じたとともに、歴史というのは単に振り返って懐かしむ対象でもなければ、冷ややかに観察する対象でもない。未来に向かって一歩踏み出す上でのきっかけを見出すべき大事な手がかりではないかと感じた次第です。20世紀最大の歴史家と呼ばれたアーノルド・トゥインビーは、「究極において歴史をつくるもの、それは表面の現象面にあらわれないところの水底のゆるやかな動きである」という表現をしています。一企業というのは大変小さな世界ではありますが、先ほどの探索、内省を深めることによって、歴史を生んできた源泉に触れた感覚を持ちました。
その感覚を大切にしながら、それ以降、1年ほどかけて、全社員と共にブランディング活動を進めてきたわけですが、大変不思議なことに、内なる探索をしていると、複数の企業様から「我が社のあるべき姿を探求する手伝いをしてくれないか」というお声をいただきました。企業のあるべき姿の明確化を踏まえながら、現場を支え、未来を作っていく要件は一体何なのか。保有してもらうべきパーソナリティの側面、チャックするマインドの側面、体現してもらいたい行動の側面を、人と組織の要件定義として固めつつ、採用、配属、育成、登用といった人材の流れを作っていく。このあるべき姿の明確化に基づいたあるべき姿の具現化をお手伝いしていくのが、我々の社会におけるミッションではないかと再定義してスタートした次第です。
こんな活動を進めていくと、社会にある優れた実践を学び呼吸していくことは大変重要なテーマになってきます。今日のワークスアプリケーションズ・小島様のお話も、おそらく牧野CEOが内省から紡ぎ出したワークスウエイを人事のお立場から実現していった、非常に優れた事例であったと思います。今後もこういった優れたモデルを手がかりにしながら、皆様と共に自らを見つめる機会、深めていく機会として、この「進化の会」を今後も進めるとともに、そういうお手伝いを力強くする我々イー・ファルコンでありたいと強く願っています。