
株式会社ビデオリサーチ |
取締役 遠藤敏之氏 取締役 尾関光司氏 経営管理局 局次長 長谷川太一氏 |
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株式会社イー・ファルコン |
取締役 菅原勝寿 |
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※登場する方の所属企業、役職等は当時のものとなります。
もはや「安定事業」という概念は通用しない激動する時代環境と新機軸の競合による脅威。 こうした背景のなかで、企業には大きな変革と新規事業の創出が求められています。 しかし・・・変わり難い企業風土・企業体質が阻害する現実。同じ課題をもっていた「視聴率調査のビデオリサーチ社」の実践と生々しい葛藤をご紹介いたします。
1.創業50年を機に「このままではダメ」という思いが浮上
- 遠藤氏
- テレビの視聴率調査を中心に、マーケティングリサーチの分野を長年やってきました。うちが特徴的なのは、メディアを中心にしたコミュニケーションにフォーカスしていることです。近年はメディアのデジタル化への対応が大きな課題になっておりまして、それは変わらず続いています。
- 尾関氏
- 2011年当時は、社内でjump50(創立50周年を迎えるにあたり、これまでの取組みを棚卸し、未来に向けて今、何をすべきか考える活動。以下「jump」と呼ぶ)という活動に取り組んでいたのですが、それはトップの明確な意志に基づくものでした。社員の何人かは今のままではダメだと思っていました。社員400人中の20%位がこの活動に手上げ制で参加し、3つのワーキンググループで協議を進めました。3つというのは、①事業基盤再構築、②未来創造、③企業風土改革で、イー・ファルコンさんには局長合宿の機会などを作ってもらい意識醸成の支援をいただきました。
- 尾関氏
- それは2つあったというのが私の認識です。インターネットの浸透によってメディアやリサーチ環境が変わり、もっというと情報への接触の仕方が変わり、その後、スマホによって変化が決定的になったというのが一つの大きな引き金です。もう一つ、これも環境の変化ですが、人口の減少で労働人口も減り、日本が決して右肩上がりにいかなくなったということ。もちろんその中で放送業界や広告業界の変化というのがあるわけですが、私は企画開発で商品を作っている立場だったこともあって、こういう環境の変化を日常的に考えていました。一方、それ以前にうちの会社は、よく言うと「やさしい」、悪く言うと「ぬるい」社風というのがあって、「それじゃダメなんじゃない」と考えている人もいたんですよね。大部分の人は「そこがいいんだよ」と思っていたのですが…。
- 遠藤氏
- 企業風土に問題意識を持っている人は、“人・組織・企業風土”をテーマに企業風土を変えていこうという「企業風土改革」のワーキンググループ「ワーキング3」に参加し、私もそこで活動をしていました。
――はじめに、貴社の事業についてお聞かせください。
――今回お話を伺いたいことは、企業風土改革に取り組み始めた2010年から現在までとなります。当時の課題はどのようなところにありましたか。遠藤さんは経営企画と人事・総務を担当する経営計画局、尾関さんは新規事業を創出するデジタル事業推進局それぞれのトップと、それぞれのお立場は異なりましたが。

――「今のままではダメ」という風土改革の引き金になったものは何だったのでしょうか。
2.イー・ファルコンのパーソナリティ調査で真因が浮き彫りに
- 遠藤氏
- イー・ファルコンさんには社員向けの意識調査および分析を担当いただき、ワーキング3(企業風土改革)のメンバーでの議論にもファシリテーターとしてご協力をいただきました。そこでは、「やさしい・ぬるい」風土について、それで本当にいいのか、それがビデオリサーチの良さだったのではないかと、様々な意見が出ました。ただ変わるきっかけとなったのは、「ぬるい」風土に問題意識を持ち、鍔(つば)を締め直した方がいいのではないかということが若い人から出てきたということです。
- 長谷川氏
- この結果を踏まえて、新卒採用では、「発展化」グループ(CL6・7・8)の割合を増やしていこうというきっかけになりました。A社と似ているということに関しては、社内でも「そうかもねぇ。」という声があったように思います。安定した収益システムの中で働いている人たちは、変わらなきゃと思いながらも、どうしても現状の安定や安心から抜け出し難いものなのでしょう。
――企業風土に関する社員の方への意識調査を担当させていただいて、見えてきたのが「オタク化しやすい人的特性」などいろいろあったのですが、一言でいうと内から外へ出ていくのが必要なのではないかということでした。これは何となく感じていたことが可視化できたということでしょうか。
――当時行った調査で、人材が組織の中でどんな役割を果たしたいのかという視点から3群8タイプに分類する「役割志向8タイプ」から分析いたしました。現状を確実に維持する「最適化」グループ、現状から新しいものを生み出そうとする「ゆらぎ」グループ、それをのばそうというのが「発展化」グループという3群。

ベンチマーケティングとして他社と比較したのですが、貴社事業に関連する企業とは人材構成に違いがありました。貴社は営業パートナーである広告代理店B社(※)や競合と目されるネットリサーチ会社C社(※)とは全く異なる人材構成でした。最も近かったのは公共系のA社(※)でした。「最適化」グループの割合が約半分を占め、堅実に物事を進める良さがある一方で、革新や飛躍にブレーキがかかりやすいと解釈いたしました。また、「ゆらぎ」グループの中でも、摩擦を恐れず発信する「CL4.群れずに進む」が少なく、自身の内面で熟考する内向的な「CL5.自己世界に生きる」が多く見られたのも特徴的でした。

3.風土改革に向けた採用での取組み
- 長谷川氏
- 採用担当者が変ったことも要因の一つかと思います。人は自分に似た人を採用する傾向があるといいますので、個人の趣味ではなく今年はどういう人を採りたいのかをきちんと決め、そういう人を採るに当たってはどういう面接官にして、何を聞くのかをきちんと考える必要があります。これからの新卒採用は、選考というよりは欲しい人材を「採りにいく」という姿勢がないとダメだと思います。
- 長谷川氏
- 真面目にコツコツできるというよりは、見切り発車でもいいから前に進む人。つまり、今までのビデオリサーチにいない人材、未来に必要と思われる人材をどう浮彫にしてどう採っていくかというのが課題ですね。
- 長谷川氏
- これは私の反省も含めて、会社の中で多くの部門の人たちと思いを共有することと巻き込むことが不十分だったのだと思います。
――新卒採用でもイー・ファルコンの適性検査をご活用いただいています。受検者の母集団から実際に内定を承諾された方、今入社されている方を同様の分析で見ると、14年採用では「発展化」グループの採用が多くなっていますね。ただ、その翌年からはまた「最適化」グループが多数派となっています。変化への対応というのもあると思いますが、その辺りはいかがでしょう。
――特に売り手市場は、学生にとっては複数の企業から内定をもらっているわけですから、いい人材をどう惹きつけるかというリクルーティング力が必要になってきます。
――組織として採用戦略を継承しにくいというのはよくおきることです。これはどうすればうまく実現できると思われますか。
4. 変えられた風土と今後の課題
- 尾関氏
- いずれにしても、あの頃に比べると、外に向き合う人の数は増えていると思いますよ。2009年はうちの会社でフォーラム(外部向けの展示発表会)に登壇したのは2名しかいなかったので、これを10倍にしようと思っていた。事実、2012年は20名と拡がりました。これは社員400名のうちの5%に当たります。その時言って終わりという人も中にはいたかもしれませんが、人前でしゃべると言動は変わっていくと思います。
- 尾関氏
- 私自身はもともと外とよく話をしている方で、ことさら外を外とも思わないほど、外と一緒に仕事をしていくというスタンスでした。ただ、それは社内には伝わりにくい。そこで、一つの施策として「出向」というかたちで外との連携を具現化したというのもあります。曲がりなりにも具体的な例を一つでも二つでも出していくのは大事ですよね。外部環境を考えると出向はこれから増やさなければならない事情がありますが、なかなか大変です。
- 遠藤氏
- 出向を通じて外向きの人間を育てようということで調整していたのですが、実際は仕事を抱えていることもあって、本人が出たがらなかったり、上司も出したがらなかったりという現状があります。jump活動で若い人からそういう意見が出たわりには、実際は変わっていないですね。jumpはまだ道半ばなのかもしれません。
- 尾関氏
- 当時も今も、それはマネジメントの問題だと思っています。マネジメントはいくつかの切り口があると思いますが、今の文脈でいうと、「人事考課」をはっきりするということだと思います。
- 尾関氏
- ゼロを1にすることが一番尊い仕事だと私は思っているので、それはその通りだと思います。また、圧がかかってストレスが生じる部署や役職に対しては、会社がそれを認める評価や考課をして同等には扱わないということも必要ですね。最初にjumpを始める時、私はアウトプットの平均値を下げても参加人数を増やすことが大事だと思ってやっていました。jumpはその内容よりも、おれたちはやったよねというムーブメントの気持ちを持てることが大事だと思っていたからです。ただその結果を通し、今は人数を多くして皆の合意性で物事を進めるのはもう限界があるなという考え方に変わってきました。本当に大事なことは、限定された中で決めればいい、と。反対する方の人数が多いから、そうしていかないと変わらない。ブレずに推進することが大事なのです。
- 遠藤氏
- やはりトップダウンは重要で、レールの敷き方、チャレンジのさせ方によっても変わります。
- 尾関氏
- 私は、「人は一生育つ」と考えないと前には進めないと思っている人間ですが、そんなのムリだと思っている人もいるでしょう。
- 長谷川氏
- 人は一生育つと思いますが、その当人にその気持ちがない限りはムリですね。
- 尾関氏
- やってもやらなくても同じというのはよくないですね。それは登用基準もそうで、ちゃんとファクトを積み上げて実績が評価されている人が登用されている方がまともですよね。実をいうと、私は全員に同じ教育を施そうとは思わなくなったところがあります。
- 長谷川氏
- 会社が施す同じ教育は20代で終わり。35歳以降はおのれで成長してもらって、会社側も見極めますというふうにしないと。
- 尾関氏
- 私もそう思う。特定の人には教えてモチベーションを高くし、難しい課題を与え、達成感を持ってもらってとした方がよくなると思います。30代からは査定も給料も変わっていく。今は、次世代を担う40歳前後を意識して育てるようにしています。
- 長谷川氏
- 個人の能力やスキル、パーソナリティも皆同じではないので、アウトプットの質や業務適性が異なり、評価も違ってくるのは当たりまえ。同じ年齢だから報酬も同じでビジネスがうまくいく時代はよかったですが、これはからそういう時代ではないですね。
- 遠藤氏
- そういう危機感をjumpでも伝えていかないといけないですね。
- 尾関氏
- 調査会社の競合というより、もっと大きなところで、ネットで自動的にデータを集めてきて何かをやるという動きが気になりますね。サンプリングデータで調査しているという単位ではなくて、もっと大きな単位になっています。広告の取引も自動的にやっていこうという動きが強くなっているから、広告会社も同様の脅威にさらされていると思います。ネットの動きはわかっていたものの、ここまで早くくるとは思えていなかったですね。
- 遠藤氏
- まさにパラダイムシフトといえます。うちもがんばって変わろうと加速してきていますが、それよりも周りの変化が激しいですね。2010年当時はまだ自律的に推進できていましたが、今はもっと外的環境から追い詰められていますね。
――一方で外部に発信するイベントなど外向きの施策にも力を入れていらっしゃいますね。

――ある飲料メーカーのトップの考えを参考に申し上げますと、チャレンジの定義を「10回やって1回成功するような難しいこと」としたのです。つまり失敗は大いに結構で、意味のある失敗をやろうというわけです。レールが敷かれていないところにレールを敷こうというメッセージです。
――今、競合といえるのはどこですか。
5. 外部からの目線で今後も示唆を与え続けてほしい
- 遠藤氏
- 上の人間は外部からアドバイスし難いので、どちらかというと35歳以下の若い人たちに「一般的には、このように考えるよ」という視点を与える方が効果的かと思います。適性検査にしても非常に項目が多くて、いろいろな視点を持たせてくれるのが良かったですね。当時はそれを検討するのに時間をかけられたのですが、jump 活動が終わってしまうと、その項目の多さが重荷になっている面もあると思います。当時は目的にフォーカスした納得感がありました。
- 長谷川氏
- 会社の中にいると見えないことが多くあります。他社をご存じの方々に、御社のこういうところはヘンですよというように第三者の目でコメントを評価していただけるのはいいと思います。
- 尾関氏
- 「代弁」と「ケーススタディの提示」、加えていうならば「スケジューリング」ですかね。代弁というのは今も長谷川が言ったように、誰かを説得するのに他者が言った方がいいということがありますよね。我々の普段の提案活動でも、社内だともめるけれど、外からこうだと言ってもらった方が通るというのはあります。ケーススタディについては、人事コンサルはいろいろな会社を知っているということだから、これはぜひ教えていただきたい。スケジューリングは、これをやると次はこうなって課題は典型的に3つ位に分かれるよとか、経験値が多いだけに予見して欲しいわけです。
- 尾関氏
- 私達は確固たる意志を持っているといいながら、現場にいると日常に埋没して忘れてしまったりすることがあるので、時々連絡をいただいて、あの案件どうなっていますかと、それに関して示唆を与え続けてほしいということになりますね。
――一当社への期待はどのようなところにあるでしょうか。

――ご多忙のところ、ありがとうございました。