
語り手
株式会社イー・ファルコン 人材・組織開発支援ユニット ユニットリーダー |
大橋直人 |
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※登場する方の所属企業、役職等は当時のものとなります。
1.はじめに
- 皆様ご存知の通り、2015年12月より、50名以上の社員(パートタイム/派遣労働者を含む)を常時抱える事業所に年に1回の「ストレスチェック」の実施が義務付けられました。近年、仕事や職業生活に対して強い不安、悩み、またはストレスを感じている社員が多くいる状況において、社員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことが目的とされています。
ストレスチェックでは、回答者本人に、ストレスの度合いと産業医との面談の必要性の有無を通知し、自身のストレス状態を把握してもらいながら、企業側には個人が特定できないよう組織単位で従業員の結果を集計し、労働環境の改善を促すことが奨励されています。
今回、ストレスチェックの実施が義務化される以前より、健康経営というテーマを掲げ組織のストレス状態の把握に努めてきたある企業様からの相談をきっかけに、当社で開発したストレスマネジメントサーベイの紹介をさせていただきます。その紹介を通じて、従来のEAP (Employee Assistance Program/従業員支援プログラム)サービスにはなかった、「ストレスを適切にマネジメントすることで、個と組織を強くしていく」という新たなストレス観に基づく人材開発と組織開発の可能性についてお話させていただきます。
2.人事担当者が抱くストレスチェックへの課題感
- 「ストレスチェックを従業員の意識調査と絡めて有効活用ができないだろうか?」
2016年の初春のことでしたが、クライアントのある人事ご担当者様から相談が舞い込みました。詳しくお話を聞いてみると、10数年前より社員のメンタルヘルスケアと、それによる健康経営の実現を目的に、定期的に社員のストレスやメンタルに関わるサーベイを実施してきた中で、大きな課題感を抱えていらっしゃることがわかりました。
当時行なわれていたサーベイでは、ストレス状態が、組織分析の結果としてマネージャーにフィードバックされるにとどまっており、たとえ高ストレス状態の社員がいたとしても、企業側はどのように対策を練っていけばいいのか分からないという問題点がありました。
それは、回答した本人に対しても同様で、ストレスが高いか低いかだけを知っても、ストレスとの向き合い方を見直したり、ストレス状態の低減に向けて具体的な改善につなげたりすることができていなかったのです。
そこで、適性検査や意識調査を通じて個と組織の実態把握を行ない、それに基づく解決策とその実行支援を行っている当社であれば、ストレスチェックを単なる“慣例的に行う現状把握”ではなく、“実態を知って、どうしたらよいのかという解決策”につながるサーベイが実施できるのではという期待からお声がけがあったのでした。
3.ストレスを適切にマネジメントして、個と組織を強くする
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協議を重ねる中で、ストレスはそもそも絶対悪なのか、ストレスが高い状態であってもパフォーマンス高く、活力のある状態で働いているビジネスパーソンはたくさんいるのではないか?という、「そもそもストレスをどのように捉えていくのか?」ということに議論が至りました。そうして「なぜ今頑張れているのかという活力の源を自己認知すること」と「ストレスに感じるポイントは一人ひとり違うので、そこに踏み込んだアドバイスを行うこと」を、個人に返却する内容として必要不可欠な要件と定めました。
組織のマネージャーに対しては、組織のストレスの状態だけでなく、メンバーが感じている組織の魅力点と改善点を示しながら、ストレスが退職や機能不全といったリスクを引き起こしてしまう危険性があるのか、組織をより良くしていくために、マネージャーとしてどのような対処をしていかねばならないのか、こういったことが分かることを要件として定めました。
ストレスを“悪”と捉え、ゼロにしていくのではなく、人と組織の成長や活力ある状態にとっては、むしろ必要なものであり、そのマネジメントこそが重要であるというコンセプトに行き着き、サーベイが設計・開発されることとなりました。
4.イー・ファルコンのストレスマネジメントサーベイの特長
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そうして生み出された当社のストレスマネジメントサーベイは、厚生労働省が推奨するストレスチェック項目を含む、職場の状態を把握できる全12視点を有しています。その結果は、法令に基づくストレスチェックの内容を充足していますが、さらに適性検査eF-1Gを別途活用することで、ストレスチェックとは異なる一人ひとりの詳細な状態を踏まえた対応策を検討できるサーベイとなります。その結果を個人とマネージャーそれぞれにレポートとしてフィードバックします。
サーベイの大きな特長は次の3つです。
① 個人としても組織としても、ストレスの状態だけでなく、活力の源がわかる
② 組織の状態をつかみ、組織のマネージャーとしてとるべき行動がわかる
③ サーベイ結果から、人材開発および組織開発の観点での対策検討につなげられる
①においては、とくに個人向けフィードバックシートの内容として、厚生労働省の推奨する項目の他、仕事を頑張ることが出来る理由(活力の源)について自覚が出来るようコメントしています。また、組織に感じている不安点やストレスに感じやすいポイントに対して、その解消に向けた行動へのアドバイスをすることで、活力ある状態で働くための一助となる内容をレポーティングしています。
②の観点においては、マネージャー向けのフィードバックシートとして、1)ストレスの観点での組織の総合評価、2)組織の魅力点・改善点、3)組織が抱える人材面での潜在リスク、4)潜在リスクに対する対処の仕方、5)マネージャー個人のマネジメントタイプと組織内の人材構成、6)それぞれの人材へのマネジメント上の留意点の6つの要素を盛り込み、組織の状態を把握しながら、具体的にどのようにしていけばよいのかをレポーティングしています。
「1)組織の総合評価」では、組織の総合状態が把握できるよう5段階でストレス状態を評価し、「2)部門別の魅力点・改善点」では職務内容、組織連携、労働環境、上司の関わり、ハラスメント、エンゲージメント等の合計9つの観点から組織の魅力点や改善点を示しています。「3)組織の潜在リスク」、「4)潜在リスクに対する対処の仕方」では、部門におけるストレス状態や退職、機能不全などの潜在リスクをグラフ化することで、危ない状況にある社員が全体の何割を占めているのか、その要因として挙げられる3つの要素と共に一目で分かるように表示、これらへのマネージャーとしての対処の仕方を記しています。「5)組織長のマネジメントタイプと組織構成」、「6)マネジメント上の留意点」では、適性検査eF-1Gの結果を元に、マネージャーのマネジメントタイプと組織のタイプ構成を分析します。組織長のマネジメントタイプは8種類にわけられ、リーダーとして優れている点や気をつけたほうがよい点をコメントしています。また、部下の役割志向8タイプについても分析し、同じタイプに対する接し方や異なるタイプに対する接し方の癖について自覚できるように促すことで、部下一人ひとりに対して、どのように関わり、働きかけていくことが必要なのかをアドバイスとして表示しています。
役割志向8タイプの詳細は下記をご覧ください。
http://www.e-falcon.co.jp/services/toolDetail7.html
特長の③として、こうした組織分析の結果を俯瞰することで、人事・経営の観点からは、各部門の課題をつかみながら、人的な問題を抱えている部門はどこなのか、とくに支援が必要なマネージャーが誰なのかを把握し、メンタルヘルスケアの観点だけでなく、人材開発や組織開発の戦略検討に役立てることが可能となります。
5.今後の展望 ~ストレスを個と組織の成長に役立てる~
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こうして完成したストレスマネジメントサーベイではありますが、さらなる今後の展開として、当社が独自に推し進める「成長の因果」の解明に基づく、人の成長の理論化と実践化を目指すプロジェクトとのインテグレーションを構想しています。
※同プロジェクトについては、【2017年1月17日新春対談「持続的成長を実現する“新たな人間観”を求めて」~「成長の因果」の理論化・実践化への対話から~】をご覧ください。
https://www.e-falcon.co.jp/voices/voiceArticle33.html
同プロジェクトでは、組織で活躍する人材の、過去から現在にわたるパーソナリティの変化と、その背景を解明し、持続的な成長を実現することを目指し、今まさに現在進行形で理論化と実践化を進めています。そこでは、パーソナリティの変化をも含んだ内面の拡張と、それによるパフォーマンスの向上を成長とし、能動的な行為の選択によってパーソナリティ自体を形成する動的なプロセスを「パーソナリティ・ダイナミズム」と名づけ、インテンショナル(意図的)に人を知り人と関わり、個人と組織の成長を支援するソリューションの開発を計画しています。
そのソリューションにおいても、“ストレス”は大変重要なテーマであると位置づけています。人が変容や成長を目指すとき、また、一人ひとりの人材の成長を期待し願うとき、これまで得意ではなかったことや経験のしたことがないことに挑戦をしていく必要があります。挑戦とは、コンフォートゾーンから一歩踏み出すことであり、不愉快さや不安といったストレスを避けることはできません。個人にとって、そのストレスが良い刺激となり、成長を後押しするものとなっているのか、もしくは行き過ぎたストレスとなり活動量や意欲を低下させてしまっているのか、定期的に測定し、適切にマネジメントすることでストレスを力に変えていくことができれば、企業における人材開発と組織開発において、個人が成長を実感し、いきいきと働きながらも、組織としてのパフォーマンスが向上していく良いサイクルを作り出すことができると考えています。
詳しいお話をご希望される方は、こちらからお気軽にお問い合わせください。
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