
語り手
株式会社イー・ファルコン
|
取締役 吉田聡 |
---|---|
株式会社イー・ファルコン
|
未来開発部 マネージャー 立部恩香 |
株式会社i-plug
|
HR & Business innovation部 大学事業チーム チームマネージャ― 矢島慶佑 |
※登場する方の所属企業、役職等は当時のものとなります。
1. 大学改革の壁を乗り越えゆく「成長の因果」
-
吉田:このたび、イー・ファルコンは大学および大学生に向けたサービスの提供を開始しました。このサービスは、我々が2015年よりスタートした「成長の因果」研究をベースとして、「幅広い視野と俯瞰する視座を得て、そこから新たな能動的行動習慣を獲得し、自立的、主体的に自らのキャリアを描き、成長していく、次代を担う人材の輩出を支援する」ことを目的としています。本研究成果を、社会に出る前の期間であり、社会に出た自分を強く意識し始める大学生に対して提供できることは大変意義深いものです。今回のご縁を作ってくださったi-plug社に一同感謝しております。
矢島:i-plugは、2年半程前から大学への営業をスタートし、これまでに約450大学を訪問、また60大学以上で年間約200回の講座等を行っています。私どもが大学を回る主たる目的は、弊社のサービスであるOfferBox(現在の登録数10万人)をより多くの学生さんにご利用いただくためです。ただ登録を促すのではなく、しっかりと価値を伝え感じていただくために、直接大学へと出向いています。
各大学とはOfferBoxを超えて、若い人の可能性を広げるために我々は何ができるのか、あるいは低学年向けキャリア教育の重要性と必要性について協議をする機会が増えています。その中で、東京の総合大学でも地方の大学でも共通する課題というものが見えてきまして、それは大きく言うと「大学改革」というところです。今年5月に文科省から、国立大学も私立大学もそれぞれ系力を強めてより特長のある大学をつくっていくという方針が示されました。「富士山型から八ケ岳型へ」と言われていますが、大学ごとの特徴をどのように出していけばよいのかを各大学が模索されています。特に、輩出していきたい人材像や人材要件の特定と、そのような人材を輩出できているのかといった、学修成果の可視化などが課題として上がっています。各大学が抱える課題を何とか解決したいと思い、イー・ファルコンさんにお声がけをいたしました。
立部:イー・ファルコンは、2003年に適性検査eF-1(注:2014年にバージョンアップし、現在はeF-1G)を独自に開発しました。eF-1Gは個社固有の人材要件を洗い出すために開発された日本一メッシュの細かい診断で、これまで多くの企業さんの「らしさ要件」や「活躍人材像」を特定し、採用・発掘・育成・登用の場面でご利用いただいております。加えて、データをある一時での活用に留めることなく、経験内容と性格データの定点観測を通して、人の内面の変化にまで踏み込んできました。今回大学に向けて提供を始めたサービスは、これまでの知見と更に一歩も二歩も踏み込んだ「成長の因果」研究を通した発見を盛り込んだものです。
eF-1Gの詳細はこちら⇒http://www.e-falcon.co.jp/ef-1g/
吉田:「成長の因果」は、シンプルに言うと、「社会において成長し続けている人の成長のきっかけとその結果の秘密を明らかにする」研究です。ここでの「成長し続けている人」とは、自らの活躍範囲を限定することなく、社会や組織に対して価値を創造しつづけている人を指しています。そして彼・彼女らの「成長の因果」を解き明かし、次の世代に還元していくことを目的としています。
吉田:2000年に創業してから18年間、我々は数多くの企業と「成長」に関する議論を行なってきました。
「成長」は、曖昧に都合よく用いられるマジックワードと揶揄されることもありますが、事業をご担当する方々にとっては、事業を支える「人材の成長」はとても切実な話です。例えば、「4万人いる社員の中で、10人しかいないトップエンジニアの後継者を、スキル教育で育成していくことができない」、または、「グローバル化が加速する中で、海外ディビジョンで活躍するグローバルマネージャーを増やすことができない」といったお悩みがありました。
それらの課題に向き合う中で、そのトップの中のトップの方々、企業が再現したいパフォーマンスを出されている方々に、これまでの成長の歩みをヒアリングし、現在の性格特性や行動習慣に加えて、単なる知識やスキルの習得ではない、本人の個性に応じた経験の順序であったり、先輩や上司との出会いが「成長」の非常に重要な要因となっていることが浮かび上がってきました。
そして、この仮説を元に、2015年より異なる個性でありながら「成長し続ける人」にスポットライトを当て、それらの人の「生まれてから今日に至るまでの歩み」について棚卸しを始めました。
立部:私も「成長の因果」研究を行なうメンバーの一人として、ヒアリングに参加をさせていただきましたが、成長のモデルとなった皆様は、様々な業界・業種を代表とされる方々でした。
また、弊社が保有する役割志向8タイプというタイプ分類において、それぞれ異なるタイプを代表とする方々でもありました。インタビューは、生まれてからこれまでの全ての歩みを対象とし、長い方で10時間させていただきましたね。また、ご本人に留まらず、過去や現在の上司、部下、ご家族にもインタビューをさせていただきました。成長というのは本当に色々な捉え方があるので、先行研究を分析することから始めて、実際のモデルを対象として半構造化インタビューを行い、モデルは経験を通して知識やスキルだけでなく、広義の性格にあたる態度(適性)も拡張させていたことや、成長には13の因子が関係しているのではないかということ、また、成長には事業への貢献や、ハイパフォーマンスの発揮といったことだけではなく、多面的で豊かな成長があるということを気づくにいたりました。即ち、大切なことは、ある特定の人材要件を満たすことではなく、経験を通して常に内面を拡張させていくこと、またその成長の習慣が備わっているということでした。
吉田:弊社が適性検査サービスを継続的に提供させていただいている中で、パーソナリティに関するデータは100万件以上、さらに紐づくかたちで意識調査・行動調査・360度調査などピープルアナリスティックに関するデータが膨大にたまっています。私たちは今回の研究を通して得られた知見と、このビッグデータの解析を通じて、人の内面を表す2つの「軸」を見出しました。この2つの軸は、人の内面性を9割がた説明できるものです。
この2軸で作成したマップに基づいて引き続きインタビューを進め、幼少期のパーソナリティから始まり、経験が内面の変化や拡張にどのような影響を与え、これが次の経験や成果にどのようにつながっていったのか、解析を重ねました。この活動を通して生まれたのが、現在36グリッド(Personality Portfolio)と呼ばれるアウトプットです。36グリッドでは、eF-1Gのデータを用いた人の内面と、経験の情報を同じ36グリット上で可視化することができるので、固有性のある人の内面が、いかなる経験を通して、どのように変化したのかが分析できる状態になります。
立部:イー・ファルコンの社員は年に2回、半年ごとのMBO面談にあたりeF-1Gを受検していますが、これまでは、メインシートと呼ばれるパーソナリティ特性の診断結果の項目毎の得点を前回と見比べながら、自らの変化を捉えていました。新たに開発された36グリッドは、2軸4つの象限(つながり、やりきり、ふみだし、ふかぼり)と36の力(適性)から構成されており、内面の広がりと変化が捉えやすくなりました。内面の変化とその時期にあった出来事を振り返ることで、新たな気づきがあり、経験の再定義を通した成長を本人がより実感することができるようになりました。
吉田:社員の結果を見ると、もちろん個人によって内容は異なりますが、内面変化が確実におきています。そして、もとから強みとして持っていること(適性)とその時々によって生まれてくる変化からその先にある「成長」が確認できます。経験を通じた学習には「経験学習モデル」(コルブ 1984)があるのですが、人はなぜ成長していくのかというプロセスが可視化できるようになったと考えています。
矢島:まさにこの「成長の因果」の取り組みと36グリッドが、大学が抱える課題を解決する秘策だと考えています。各大学にはいろいろな会社の適性検査が入っており、学生は然るべきタイミングで検査を受けて、結果データを手にしています。ただそれらのデータを使いこなせていないという現状があります。それはなぜかと考えていくと、先ほどの大学改革の柱となるところに問題があるのです。「輩出人材像の特定」については、特定の要件やタイプにはめこむような限定的なものであり、「学習効果の可視化」でいうと、現行の診断は人を固定的に捉え、内面の変化を十分に可視化することができません。一方で、イー・ファルコンの「36グリッド」に当てはめてみると、「輩出人材像の特定」は全方位的であり、「学習効果の可視化」は動的に見ることができます。36グリッドなら、それぞれの大学の大学改革の課題に立ち向かって解決に寄与できると確信しています。
2.留学経験がもたらした内面の変化とは
-
立部:「学習効果の可視化」というお話がありましたので、ここからは実際に某私立A大学で取り組んだ事例と実際の学生データを用いながら、お話しを進めさせていただければと思います。こちらの大学さんとi-plugさんとの出会いは、学内ポートフォリオとOfferBoxのAPI連携からだと理解しています。
矢島:学内ポートフォリオの活用の幅を広げ、価値を最大化していく取り組みの中で、OfferBoxとの連携を選択していただきました。また、こちらの大学では、人格形成や人間的成長といった豊かな人間力を育むことが重要視されており、これを目的として様々な学内プログラムが準備されています。当時のキャリアセンター長と学生のキャリア形成に関する協議をさせていただく中で、学生の内面の見える化と大学が提供するプログラムを通した成長の可視化のニーズが上がりました。
立部:A大学では、任意で受検を希望された学生さん700名弱に加えて、8つの学内プログラムで、同一学生の参加前、参加後のデータを取得しました。「学習効果の可視化」に関する分析は、特定の経験を持った群と持たない群の比較、同一学生の経験前・後データの比較、の二種を行いました。
吉田:特定の経験がある群とない群の比較分析では、非常に納得感のある結果がでましたね。特に留学経験の有無に関しては、留学経験なし、短期留学経験あり(3ヶ月未満)、長期留学経験あり(3ヶ月以上)の3群で比較を行ったところ、それぞれに顕著な違いがみられました。
立部:結果をみていく前に、36グリッドが表示する内面領域について改めて説明をさせていただきます。36グリッドは、人の内面領域をもっとも説明率の高い2軸で整理し、《つながりの領域》《やりきりの領域》《ふみだしの領域》《ふかぼりの領域》といった4つの領域の中に、それぞれ2つの力が存在しています。《つながりの領域》は〈応じる力〉と〈関わる力〉、《やりきりの領域》は〈律する力〉と〈支える力〉、『ふみだしの領域』は〈一人で進む力〉と〈率いる力〉、《ふかぼりの領域》は〈こだわる力〉と〈見つめる力〉、この8つの力の中に、さらに36の詳細な力が存在しています。余談ですが、この内面領域と一般的によく知られている社会人基礎力との関係ですが、実際の学生データを分析した結果をマップ上にあらわしてみると、社会人基礎力というものは全体的に右上の《つながりの領域》《やりきりの領域》《ふみだしの領域》にまたがる力だということが説明できます。
立部:A大学学生の3群比較結果に話を戻しますと、留学未経験者は《つながり領域》に重心が置かれており、その中でも周囲の期待や要請に応じていく、〈応じる力〉が高いという結果が出ました。また、《やりきり領域》の〈律する力〉も高い結果が出ています。短期留学経験者は、留学未経験者と同様、《つながり領域》が高いのですが、その中でも自ら積極的に周囲と関わっていく〈関わる力〉が高くなっています。また大きな違いとして、《ふみだしの領域》が高く、その中でも〈率いる力〉が高いことがわかりました。
次いで長期留学経験者は、先ほどの2郡とガラリと様相が変わり、《つながり領域》の適性が減り、《ふみだし領域》に強い重心があり、その中でも〈率いる力〉に加え〈一人で進む力〉を強く保持していました。
吉田:この留学未経験者と経験者のデータを考察しますと、留学とは《ふみだし領域》の〈率いる力〉に関わる経験であることが分かります。短期留学経験者は〈率いる力〉に加え、《つながり領域》の〈関わる力〉が高いことが分かりましたが、それは短い期間に現地の人たちと交流していかなければならない環境が影響していると考察されます。そして長期留学経験者が《ふみだし領域》の〈一人で進む力〉が高いのは、皆で共に行動するのではなく、一人で大仕事にチャレンジする、そのような力が長期留学に必要であったからではないかと考察されました。このような別々の経験を持った3群の比較になりますので、結果が「因」である場合はもともと持っていた「接近経験」、「果」である場合は留学によって自分の内面を高めることができた「拡張経験」ということができます。
立部:この分析結果を通して見えたことは、未経験者と経験者では明確な内面の違いが確認されたということ、同じ留学でも短期と長期では必要とされる、または培う力が異なるという結果でした。
矢島:留学といってもひと括りにはできませんね。なんとなくそうじゃないだろうかと思っていたことが、このようにデータとしてはっきりと見えることは、大変興味深いです。
3.インターンシップ前後の比較でみえてきた新たな「経験学習」のメカニズム
-
立部:次は、インターンシップの経験に関わる結果をご紹介します。先ほどの留学経験データは2群比較のみでしたので、吉田さんがおっしゃった通り、もともと持っていた適性からの「接近経験」であったのか、経験を通して培った「拡張経験」であったのかがわかりませんでした。インターンシップに関しては、経験有無の2群比較と共に、同一学生の経験前後データがありますので、先ほどの問いに答える結果が見えました。
矢島:どのような結果が見えたのか、気になりますね。
立部:先ずは、2群比較です。内面のインターンシップ経験者を未経験者と比較すると、全体的に《やりきり領域》と《ふみだし領域》の力が高いことが分かります。この分析では、もともとどこに重心を置くかで内面がどう変わってくるのかを更に掘り下げてみました。すると、《つながり》を中心に置く学生は、インターンシップ経験者の方が未経験者に比べて、もともと高い《つながり領域》の〈関わる力〉〈応じる力〉を保持しながらも、《やりきり領域》の〈支える力〉と《ふみだし領域》の〈率いる力〉が高いことが分かりました。もともと《やりきり》を中心に置く学生は、《やりきり領域》の適性がより高く、加えて《ふみだし領域》の〈一人で進む力〉〈率いる力〉も高く持っていました。《ふみだし》を中心に置く学生は、《ふみだし領域》が高いことに加えて、《やりきり領域》が未経験者より高いという結果が出ています。最後に《ふかぼり》を中心にした学生は、《ふかぼり領域》に加えて、先ほどの《ふみだし領域》の学生と同じく、やはり《やりきり領域》の結果が高いことが分かりました。
矢島:もともとの得意領域が異なっても、経験者は共通して《やりきり領域》が高いということですね。
立部:そうです。ここから、同一学生の、インターンシップ前と後との変化データをご紹介します。インターンシップ経験前、インターンシップ経験後、そして前後の差分を見ていくと、まず《つながり》に中心を置く学生は、《つながり領域》に強い重心を置く一方で、内面の変化を見ると《やりきり領域》と《ふみだし領域》の力を高めています。次に《やりきり》に重心を置く学生は、こちらも《やりきり領域》に重心があることは変わりませんが、《やりきり領域》の力を高めていることに加え、《つながり領域》と《ふみだし領域》の結果を高め、幅広く力を高めていることが分かります。《ふみだし》に重心を置く学生は、《やりきり領域》の力を非常に高めています。最後に《ふかぼり》に重心を置く学生も、《ふみだし》の学生と同様、《やりきり領域》を広げています。
吉田:結果として、経験の異なる2群の比較と同一人物の前後のデータ比較の結果は非常に似通っていました。先ほどのようにまとめると、インターンシップとは《やりきり領域》に関わる経験であることが分かりました。そして同一人物の前後の結果データから、インターンシップとは内面の拡張、または内面を高めていくことに寄与したということを確認することができました。細かく見ていくと、経験前にグラフ上の重心を右側に持つ学生は、《やりきり領域》に加えて《ふみだし領域》も高めやすいということが確認できました。
立部:変化を確認できると次の疑問が沸いてきます。インターンシップがなぜ《やりきり領域》と《ふみだし領域》を広げることができたのか、この内面領域の変化をどのように捉えるべきか、という疑問です。
吉田:パーソナリティと意識と行動の関係を説明する「氷山モデル」の三層構造でとらえると、水面下の見えない部分がパーソナリティ特性、その上に意識や行動があります。「氷山モデル」では、ここまでの説明にとどまりますが、実際には、行動は経験となり、その意味づけが、水面下にある内面に影響を与え、意識を変化させ、行動を変えます。そして行動が習慣となり成果を生み出すのです。
今回の同一学生の変化の結果は、このパーソナリティ特性と内面の変化を投射したものだと理解することができます。
私たちが本サービスを通して大学生に伝えたいことは、自己内面の広がりと成長を知ることで、未来に備えていくことができることです。これまでの自分をより深く知り、これからの自分に備えていくのです。
具体的な経験を内省、本質化して新たな選択肢を生み出すという「経験学習モデル」のサイクルの背景には、その人の個性と内面の成長が非常に深くかかわっているので、個性と内面の成長を把握して活かしていくことが大切だと考えています。
そして、個人においては自分への向き合い方を変えること、大学・企業においては他者(学生、社員)への関わり方を変えること、がいま重要なのです。
立部:「人は誰でも成長したい」という心のスイッチを持っていて、また充実した生活を送りたいという情緒的な価値観を持っています。ところが実際は、自分事であるのになかなか自分の過去をふりかえったり、未来に備えたりすることができていないのではないか。この「ふりかえる」と「未来にそなえる」を考えていこうというのが、我々の重要なテーマです。
矢島:学生向けのアウトプットを拝見しましたが、見た目もとてもかわいらしく面白い仕立てになっていて、私も自分の結果を見入ってしまいました。OfferBoxとつながりのある一部学生にも受検結果をフィードバックしましたが、とてもよい評価でした。
吉田:学生さんからそのような声を聞くことができると、大変うれしいですね!
4.経験の意味づけが生み出す「人生の確信」
-
立部:最後に、イー・ファルコン社員のデータから、変化と変化の理由を考察した事例をご紹介したいと思います。まず、こちらのデータは、入社5年目の社員の過去3年間の受検データです。先ほどもお伝えしたとおり、弊社では半年ごとに「eF-1G」の検査を受けているので、成長をトラッキングしていくことが可能になっています。この社員は、新卒で入社した当初から《つながり》に重心を置いた人材でした。それは今でも変わらず、役割志向8タイプ分析に当てはめてみると、常にCL8の周りをサポートするタイプという結果です。ただ変化の中身を見てみると、3年間で《ふみだしの領域》が高まっていることを確認することができます。その力が高まった時期と、その時に担っていた役割やおこった出来事を振り返ると、《ふみだし》が高まった2017年4月と10月は、その半年前からその社員は海外での事業経験がまったくない中で海外事業の開拓チームに入っています。それまではサポートの役割につくことが多かったのですが、当社としても実績のない新しい国・市場で自ら考え、時には一人で突き進んでいくという経験をしました。
吉田:彼女は、この3年間で本当に頼もしい人材へと成長しました。今年から、海外チームを率いるリーダーとして活躍しています。相手に寄り添うことが強みであった社員が、寄り添うことに加えて、後輩たちの道を切り拓くというたくましい社員に成長した事例です。
立部:続いて、今や2児の母でもある入社8年目の社員の、3年間の変化とその理由を紹介します。もともと《ふみだし》に重心を持つ社員で、目的達成意欲が高く、時には軋轢も厭わないというパワフルな人材です。8タイプで言うと、CL6の周囲をリードするタイプです。多くの場合、このタイプは他者との《つながり》に関する特性が相対的に低いものなのですが、二度の産休・育休の経験がこの《つながり》の特に〈かかわる力〉を高めたという結果が確認できました。また、この社員はその後新規事業を担うことによって《やりきり》の力も高めています。
吉田:産休・育休の期間というのは、職場から離れる経験であるため、多くの場合、会社側も本人もブランク期間やキャリアの妨げになる期間であると捉えられがちです。
しかし、この事例から、実際はその後の仕事にも寄与する重要な経験であることがわかります。この社員は、産休・育休の経験を経て、非常にバランスの取れたパフォーマンスを発揮する人材に成長したと私も周囲も日々のかかわりを通して実感しています。
立部:今回の結果の考察は、本人と共に振り返りを行いながらまとめました。36グリッドを用いて変化を可視化し、変化の理由を振り返ることで、本人がより成長を確かに感じることができ、自信につながったとのフィードバックをもらっています。中には、自分の中での失敗体験が《ふかぼり》の領域を広めていることが分かり、自信をなくしていたところから、自分にとって意味のある経験だったと肯定的に経験を捉えなおすことができたという声もありました。
吉田:私たちは自らの経験に対して無意識の価値観(無意識バイアス)で良し悪しを判断してしまうことが多いです。ところが、嫌だったり、恥ずかしかったり、良くなかったと感じた経験であっても、内面には何らかの変化がおきていて、それは成長につながる大切な鍵である。重要なのは、その鍵を成長へ意味づけすることであり、これを後押しするサービスを目指して36グリッドの更なる開発を進めています。
矢島:すべての経験を成長へつなげていくことを支援するアウトプット、まさにこれが36グリッドの優位性であると私は確信しています。大学を回っていますと、この内容に強い共感とニーズの声を頂きます。受験を失敗して入学してくる学生から始まり、都度起こる挫折経験から立ち直ることができずに4年間を過ごしてしまう学生さんたち、インターンシップや留学など豊かな経験をしているのにもかかわらず、十分な意味づけを行えていないために自信が持てずにいる学生さんたちなど、本当にもったいなく、視点や意識を転換するきっかけを必要としている学生さんたちが沢山いらっしゃいます。
立部:表現方法など、今後も改良を重ねて、大学生の心により届くことのできるサービスを今後もめざしていきたいと思っています。
吉田:内面の振り返りと経験の意味づけの次のステップとしては、未来の選択です。ここは、大学のキャリアセンターと連携を行いながら、現状は面談等で活用を行っていただいていますが、今後はモデルとなるOB・OGの分析を通して、同じ内面の傾向を持つ先輩から学んだり、経験と意味づけを共有したり、応援しあっていくような仕組みへと発展させていきたいと考えています。これからも大学さんや学生さんの声を聞きながら、バージョンアップさせていきたいと願っていますので、引き続きよろしくお願いいたします。
矢島・立部:これからも是非よろしくお願いいたします。