人事部の資料室

Z世代の職業観とは? リテンション強化のために押さえておきたいその特徴

作成者: e-falcon|2022/07/10

Z世代はデジタルネイティブであるだけでなく、それまでの世代とは異なる特徴をもつといわれています。
例えば、離職・転職は彼らにとってそう特別なことではないようです。

彼らの価値観や職業観はどのようなものでしょうか。
それらを把握して、Z世代の早期離職を防ぐにはどのようなことに留意すべきか考えてみたいと思います。

Z世代の離職と転職

Z世代の定義は一律ではなく、国や研究者、組織によって違いますが、経産省の資料には1996年から2012年までに生まれた人々とあります。*1
これからみていく調査もほぼ1990年代半ば以降に生まれた人を対象にしています。

Z世代は本当に早期離職者が多いのでしょうか。離職・退職状況からみていきましょう。

離職・転職の実態

厚生労働省の「雇用労働調査」の結果によると、Z世代にあたる「常勤労働者」の離職率は、19歳以下の男性が40.5%、女性が40.8%、20~24歳では男性30.7%、女性33.9%で、やはり離職率は高いようです。*2

次に同調査で、転職者として入社した人の割合をみてみましょう(図1)。


厚生労働省「2019年(令和元年)雇用動向調査結果の概要」p.15
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/20-2/dl/gaikyou.pdf

男性は19歳以下から40~44歳の年齢層では若いほど転職者が多く、19歳以下で16.9%、20~24歳で16.0%です。
女性(計)の場合も、20~24歳から30~34歳の年齢層では、若いほど転職者が多く、20~24歳で18.2%、パートに限ると同年齢層で23.3%に上ります。

以上のことから、Z世代は他の世代に比べて実際に離職率が高く、転職者も多いことがわかります。

離職・転職に対する意識

次に、Z世代の離職・転職に対する意識を探ってみましょう。

東京商工会議所が2022年3月末から4月に行った「2022年度 新入社員意識調査」の結果から、新入社員が「今の会社でいつまで働きたいか」をみます(図2)。*3


東京商工会議所(2022)「2022年度 新入社員意識調査」p.9
https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1029600

Z世代を1996年以降に生まれた人だと考えると、Z世代にあたるのはこの図中の2021年度と
2022年度に入社した人たちです。

2022年度の新入社員をみると、「定年まで」と答えた人が23.8%であるのに対して「チャンスがあれば転職」と「将来は独立」を合わせると25.5%に上り、定年まで今の会社で働きたいと思っている人より転職を視野に入れた人の方が多いことがわかります。

10年前の2012年度調査とこの2022年度調査を比較すると、「定年まで」は12.4%減少し、「チャンスがあれば転職」「将来は独立」と回答した割合の合計は7.2%増加していることから、Z世代とそれより上の世代とは職業観が異なることがわかります。

また、日本労働調査組合が2021年度卒の新入社員を対象に、入社後すぐの2021年5月下旬に行った調査では、「入社後に退職を検討したことがある」と回答した男性は54.9%、女性は48.4%に上っています。*4

さらに、デロイトトーマツが行った調査によると、「2年以内に離職する」という意向のZ世代は、新型コロナウィルス感染拡大前の2019年には64%でした。翌年にはコロナ禍の影響で29%に減少したものの、2021年には32%に微増しています。*5

以上の調査結果から、Z世代は本格的な社会経験をもつ前から、転職を視野に入れている世代であることが窺えます。

離職理由

では、Z世代の離職理由はどのようなものでしょうか。

上述のデロイトトーマツの分析によると、一般的には報酬面での不満や昇進・スキル開発機会がないことなどが挙げられていますが、企業がリモートワークに移行しないことも1つの要因と考えられます。*5

さらに、メンタルヘルスも重要な側面であることが指摘されています(図3)


出典:デロイトトーマツ「調査レポート ミレニアル・Z世代 悲観の時代で成功する鍵は「柔軟性・適応性」? 2021年 デロイト ミレニアル・Z世代年次調査日本版 COVID-19に影響を受けたミレニアル・Z世代のマインド」
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/about-deloitte-japan/millennial-survey.html

図3は、ストレスレベル・雇用主のメンタルヘルスのサポート別に、2年以内に離職する意向を持つ人の割合を示しています。
この図をみると、1つ上の世代であるミレニアル世代と比べて、ストレスレベルが高い回答者ほど離職率が高い傾向がみてとれます。

また、参考値ではあるものの、雇用主がメンタルヘルス対策を効果的に実施していないと評価する回答者は、2年以内離職意向率が高くなる傾向がみられることから、メンタルヘルスケアは、Z世代の定着を図るポイントの1つといっていいでしょう。

同調査では、「雇用主とストレスについてオープンに話したことがない」と回答したZ世代の割合が65%となっています。ストレスをオープンにできる企業風土は、心理的安全性を高め、ストレスの予防・低減につながると考えられているため、Z世代の定着のためには、そうした観点からの職場作りが求められます。

Z世代の価値観・職業観

Z世代のリテンション強化のためには、彼らの価値観や彼らが望む働き方を知る必要があります。
Z世代の大学生を対象にした調査の結果から、彼らの価値観や職業観を探ってみましょう。*6

理想とする自分像

「理想とする『将来の自分』像に最も近いもの」に対する回答では、最も割合が高かった順に、「愛する人と結婚して子供ができ幸せに暮らす」(24.7%)、「一生食べていける安定した仕事を持つ」(23.8%)、「自分の好きな仕事を一生続ける」(16.2%)となっており、安定した暮らしを求めていることが窺えます。

このうち、「一生食べていける安定した仕事を持つ」「自分の好きな仕事を一生続ける」は前述の離職・転職志向の強いZ世代の特徴と一見、矛盾しているようにもみえますが、こうした理想があるからといって、1つの職場にはこだわらないうところが、Z世代の特徴かもしれません。

そうであれば、Z世代が、自分の好きな仕事に必要な能力を高め、安定した仕事を確保できるように、企業側はOJTなどを充実させていくことも必要でしょう。

人生における優先事項

Z世代は人生で何を大切にしているのでしょうか(図4)。


出典:キャリアリサーチLab(2022)「Z世代・働き方と仕事の価値観とは?【2022年最新調査で考察】」
https://career-research.mynavi.jp/column/20220407_25603/

この調査では1996年以降に生まれ、2019年度以降に大学を卒業した人々をZ世代としています。

2017年度卒の回答では「家族>仕事>趣味>自分>友情」と仕事(31.8%)が2番目だった優先順位が、2023年度卒のZ世代では、家族>自分>趣味>友情>お金>仕事」で、仕事(17.0%)は6番目と、優先度が著しく下がっています。

このことから、ワークライフバランスの「ライフ」の方を大切にするという価値観が窺えます。その辺をもっと詳しくみていきましょう。

共働きと柔軟な働き方

Z世代は、結婚後どのような働き方を希望しているのでしょうか。
共働きに関するZ世代の意識をみてみましょう(図5)。


出典:キャリアリサーチLab(2022)「Z世代・働き方と仕事の価値観とは?【2022年最新調査で考察】」
https://career-research.mynavi.jp/column/20220407_25603/

共働きを希望するZ世代は、23年度卒業では男性は59.9%、女性は74.5%と高水準です。
また、結婚を希望している22年卒のZ世代のうち、パートナーに結婚後働き方を変えてほしいと希望しているのは、男性は56.8%であるのに対して女性は42.5%、自分自身の仕事を結婚後は変えたいという割合は、男性28.8%なのに対して、女性は47.1%と男女で異なる傾向をみせています。

ただし、結婚後は「主婦/主夫になってほしい」とパートナーに望む人の割合も、自分自身「主婦/主夫になりたい」という人の割合も低いことから、共働きで長く働き続けるという意向をもっているZ世代が多いことがみてとれます。

このような状況から、特に女性の場合は、キャリアパス制度を導入するなどして、多様な働き方をしながら柔軟にキャリアを重ねていけるようなサポートを提供することが、定着につながる方策といっていいのではないでしょうか。

育児休業に関する男性の意識

家族を大切にして、結婚後も働き続けたいという希望をもっているZ世代は育児休業についてどう考えているのでしょうか。

「育児休業をとって積極的に子育てしたい」と考えている女性はこの調査ではこれまで7割程度で推移してきました。
では、男性はどうでしょう(図6)。


出典:キャリアリサーチLab(2022)「Z世代・働き方と仕事の価値観とは?【2022年最新調査で考察】」
https://career-research.mynavi.jp/column/20220407_25603/

図6から23年卒の男性は、「育児休業を取って積極的に子育てしたい」と回答した人が約60%に達していることがわかります。
また、その理由として最も割合が高かったのは、「育児休業を取るのは当然の権利だと思うから」で、38.7%に上っています。

ところが、現在、6歳未満の子どもを持つ男性の1日あたりの家事・育児時間は1時間23分で、そのうち育児時間は49分。これは国際的にみて低い水準です。*7
夫の家事・育児時間が長いほど、妻の継続就業割合が高く、また第2子以降の出生割合も高い傾向にあるのですが、2020年の育児休業取得率は女性が81.6%だったのに対して、男性は12.65%に過ぎませんでした。

こうした状況から、男性の育児休業取得を促進するために、「育児・介護休業法」が改正され、2022年4月から段階的に施行されつつあります。
法律の改正に伴って、企業には、男性も育児休業を取得しやすい雇用環境を整備し、妊娠・出産の申し出をした労働者に対しては、新しい育児休業制度について個別に周知し、意向を確認することなどが義務づけられました。

Z世代の志向に沿う法改正ともいえ、それを遵守するのは当然として、男性が後ろめたさを感じることなく、堂々と育児休業を取得できるような企業風土の構築が必要です。

Z世代は大切なことを教えてくれている

Z世代の特徴をここまでみてきて、Z世代が定着する職場は、誰にとっても居心地がよい職場ではないかと思ったのは筆者だけでしょうか。

これまでの世代とは異なる価値観をもつZ世代は、上の世代に「今までのやり方でよかったのか」と省みる材料を提供してくれていると考え、本質的なところで彼らの価値観に向き合うことができれば、よりよい職場の在り方がみえてくるかもしれません。