人事部の資料室

ポジティブハロー効果とネガティブハロー効果とは?最小限に抑える方法

作成者: e-falcon|2022/12/06

「ハロー効果」は、人事評価において起きやすい認知バイアスのひとつです。

ポジティブ(過大評価)にもネガティブ(過小評価)にも影響を与え、適正な人事評価を妨げる原因となります。

この記事では、ハロー効果の基礎知識を踏まえたうえで、どうすればハロー効果を最小限に抑えられるのか、考えていきたいと思います。

ハロー効果とは何か?基本の知識

まず、「そもそもハロー効果とは何か?」から見ていきましょう。

ハロー(halo)=太陽や月の周囲に見える輪状の光

日本語で「ハロー効果」と聞くと、「Hello=こんにちは効果?」と連想してしまいますが、同じハローでもスペルが異なります。

正解は、光輪や後光という意味を持つ「halo」です。

ハロー効果は、後光効果・光背効果ともいわれ、認知バイアス(無意識のうちに起きる思考の偏りや歪み)の一種となります。

以下は『評価者となったら読む本』からの引用です。

▼ ハロー効果とは?

ハロー効果とは、実態以上に光り輝いているように見えることをいう。逆に実態以上に悪く見えることもありうる。

つまりハロー効果というのは、何か一つ良いと実態以上に良く見てしまう、何か一つ悪いと実態以上に悪く見てしまうことをいう。

レッテル人事も、ハロー効果の一種とみることが出来る。

「よく出来る」とか「一流大学卒」というレッテルがついた者には、そのレッテルを通して行動や結果をみてしまう。「出来ない」というレッテルがついた者には、そのレッテルで行動や結果をみてしまう。

これでは公正な評価とはならない。

*1

以下のように、実態よりも大きく光り輝く輪(=ハロー)のサイズで評価してしまうことを、ハロー効果といいます。

とくに、著しく好ましい(あるいは好ましくない)特徴がある場合、太陽のまわりにできる大きな光輪のごとく、ハロー効果の影響が大きく出やすくなります。

ポジティブなハロー効果・ネガティブなハロー効果

もともと「ハロー効果」は、アメリカの心理学者エドワード・ソーンダイクによって提唱された、心理学分野の概念です。

たとえば、容姿が魅力的な人を面接した場合、容姿とは関係ない性格、能力、倫理観、意欲までも高評価する傾向があります。

こういった効果は、中立的であるべき選挙や裁判においても認められる、と報告されています。

なお、心理学用語で「ハロー効果」といったときには、おもに好印象に振れるバイアスを指します。逆に悪印象に偏る場合には、「逆ハロー効果」あるいは「デビル効果」と呼ばれます。

人事用語としては、
「ハロー効果には、ポジティブへ傾くだけでなく、ネガティブへ傾くこともある」
と覚えておきましょう。
*2

ハロー効果が職場にもたらす問題

ハロー効果は、実際とは異なる人事評価につながってしまうため、回避すべき認知バイアスであることは、いうまでもありません。

さらに、じつは気づきにくい問題も抱えています。2つのポイントを見ていきましょう。

1:ほかの従業員の評価が相対的にマイナスとなる

1つめのポイントは、ポジティブなハロー効果が抱える問題です。

「実態よりも高評価となるなら、従業員は損しないので、そこまで大きな問題ではないのでは?」
と感じる方もいるかもしれません。

しかし、 “ある特定の従業員が実態以上にポジティブに評価されると、ほかの従業員の評価が相対的にマイナスになる” という視点を持つことが大切です。

「ハロー効果で評価されている特定の従業員と、まったく同じ行動をしているほかの従業員がポジティブに評価されない」
という観点で、ほかの従業員にダメージを与えるリスクがあるのです。

2:多様性のある人材活用がうまくいかない

2つめのポイントは、多様性のある人材活用を進めるうえでの問題です。

ハロー効果は、強い光を放つほど、その影響が色濃く出ます。別の表現をすれば、強烈な個性を持つ人材ほど、ハロー効果の影響にさらされやすい、ということです。

現在、国の政策として「ダイバーシティ経営」が推進されています。

▼ ダイバーシティ経営とは?

経済産業省では、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。

「多様な人材」とは、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性も含みます。

「能力」には、多様な人材それぞれの持つ潜在的な能力や特性なども含みます。

「イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」とは、組織内の個々の人材がその特性を活かし、生き生きと働くことのできる環境を整えることによって、自由な発想が生まれ、生産性を向上し、自社の競争力強化につながる、といった一連の流れを生み出しうる経営のことです。

*3

ハロー効果の対策なしにダイバーシティ経営を進めることは、人事評価が正しく機能しなくなるリスクを高める、危険な行為といえるでしょう。

ハロー効果を最小限に抑える方法

では、ハロー効果を最小限に抑えるために、何をすべきでしょうか。

1:ハロー効果が忍び込んでいる事実に気づく

まず重要なことは、私たち全員が、認知バイアスの影響を受けていて、思考の偏りや歪みを持っていると認めることです。

「自分の考えが正しい」という、思い込みを手放すところがスタートです。

ノーベル経済学賞を受賞した心理学者、 ダニエル・カーネマンは「ハロー効果」について、以下のように述べています。

この言葉は心理学の分野では一世紀以上前から使われてきたが、日常的に使われる用語ではなかった。これは残念なことだ。というのもハロー効果は、人物や状況の評価でひんぱんに見受けられる重要なバイアスを表現するのに、ぴったりの言葉だからである。

*4

私たちは、すぐに「わかった気」になってしまいます。

しかし、本当は何もわかっていないのかもしれない。自分は誤った思い込みをしているかもしれない。

そんなふうに顧みる謙虚さと、思考の柔らかさが、ハロー効果を遠ざけるために必要です。

2:質の高い人事評価制度を構築する

次に、質の高い人事評価制度を構築することが、ハロー効果をはじめとする認知バイアスを組織から排除するために、不可欠です。

「すべての人間には、認知バイアスがある」
という前提に立ち、認知バイアスを織り込んだ制度設計をすることが、カギとなります。

具体的には、認知バイアスに左右されない評価基準・評価項目を策定することや、ハロー効果の入る余地のない明確なスコアリングを取り入れることなどが挙げられます。

評価者となる従業員の評価スキルへ依存せず、「誰が評価しても、同じ結果になる人事評価制度」を目指して、仕組みの改善を重ねていきましょう。

3:AI活用や適性検査など人間以外の視点を確保する

最後に、認知バイアスのない “人間以外の視点” を確保しておくことも、有益です。

たとえば、AIを活用した人事評価システムや、採用時の適性検査などがあります。

これは「人間の視点を100%なくす」という意味ではありません。人間の視点に “プラスα” することで、多角的な評価を実現するところに、価値があります。

認知バイアスに気づくきっかけ、あるいはリスク回避として、機能させましょう。

さいごに

本記事では「ハロー効果」をテーマにお届けしました。

認知バイアスや人事評価の偏りについて、より深く学びたい方には、以下の書籍をおすすめします。

・ 『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』
・ 『NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?』

どちらも、本文中でご紹介したダニエル・カーネマンの著書です。

筆者も人事の勉強のために読み始めたのですが、マーケティングや経営などのビジネス、人間関係、そして人生にも、多くの示唆を与えてくれました。

「自分が正しい」と思い込めば、争いが起きます。大きく判断を誤ることになるかもしれません。

「私が知らない何かが、あるのかもしれない」
と、いい意味で自分を疑い、“見えていない何か” に思いを巡らせ、中立から思考しようとする態度を、持ち続けたいと思います。