人事部の資料室

従業員の健康を守り企業の生産性を高める 「勤務間インターバル制度」の動向とは

作成者: e-falcon|2023/08/29

日本人の平均睡眠時間は諸外国に比べて短いという統計があります。
一方で、十分な睡眠は従業員のヘルスケアとしても企業の生産性向上の点でも有益です。

十分な睡眠時間を確保するのは個々人の努力だけでは難しく、企業が「勤務間インターバル(終業から次の始業までの間)」を適度に設定することが必要だと指摘されています。
実は勤務間インターバルの設定は2019年から企業の努力義務となっているのですが、導入率は高くありません。

そこで政府は「勤務間インターバル制度」の普及に乗り出しています。
その動向を探っていきましょう。

日本人の睡眠時間と睡眠不足が招くリスク

まず、日本人就業者の睡眠時間と健康問題についてみていきます。

睡眠時間

経済協力開発機構(OECD)が公表した「Gender data portal 2021」によると、日本人の1日の睡眠時間は、男性448分、女性435分、全体で442分で、調査対象の33か国中、最も短いことがわかっています。*1, *2:p.4
ちなみに、33か国全体の平均は8時間28分ですから、それより1時間以上短いことになります(図1)。

出所)厚生労働省「解説書 知っているようで知らない睡眠のこと」p.4
http://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/guide-sleep.pdf?1684281600049


厚生労働省の調査でも、睡眠時間が6時間未満の人が男性36.1%、女性39.6%に上り、睡眠によって休養を十分にとれていない人の割合も20%を超えていることがわかっています(図2)*2:p.3

出所)厚生労働省「解説書 知っているようで知らない睡眠のこと」p.3
http://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/guide-sleep.pdf?1684281600049

睡眠不足が招くリスク

睡眠不足はさまざまなリスクにつながることがわかっています(図3)。*3

出所)厚生労働省 eヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html


睡眠不足が招くリスクを、健康問題とその他の問題に分けてみていきましょう。

健康問題

慢性的な睡眠不足は日中の眠気や意欲低下・記憶力減退など精神機能の低下を引き起こします。*3
また、それだけではなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を及ぼすことが知られています。

たとえば健康な人でも1日4時間睡眠を2日間続けると、10時間眠った日と比べて食欲を抑えるホルモンの分泌が減少し、逆に食欲を高めるホルモンの分泌が亢進するため、食欲が増すことがわかっています。

また、慢性的な寝不足状態にある人は糖尿病や心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患といった生活習慣病にかかりやすいことも明らかになっています。

事故・パフォーマンスの低下

寝不足の状態では注意力やパフォーマンスが低下し、事故やヒューマンエラーの危険性が高まります。*4

交通事故と睡眠時間の関係を調べた日本の研究によって、睡眠時間が6時間未満の人は、追突事故や自損事故の頻度が高いことがわかっています。

また、ある研究では、4時間睡眠を数日続けると、生産性が徹夜明けの日と同じくらいにまで低下するという結果になりました。
ただ、寝不足による生産性低下は本人が自覚しにくいため、忙しい職場では気づかないうちに、いつの間にか作業効率が落ちているという状況に陥るおそれがあります。

米国のシンクタンクが試算したところ、睡眠が足りないことによる損失は、日本国内で年間最大1,380億ドル、約15兆円に上りました。
睡眠時間を削って一生懸命働いても、逆に損失を生み出す状況になっているといっていいでしょう。

「勤務間インターバル制度」のメリットと導入割合

これまでみてきたような睡眠問題のソリューションとして、「勤務間インターバル制度」が注目されています。

「勤務間インターバル制度」とは

「勤務間インターバル制度」とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、働く人の生活時間や睡眠時間を確保するというものです(図4)。*5

出所)厚生労働省 東京労働局「勤務間インターバル制度をご活用ください」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/interval01.html#:~:text=%


この他、ある時刻以降の残業を禁止し、次の始業時刻以前の勤務を認めないことによって、休息期間を確保する方法もあります。

こうした勤務間インターバルは、通勤で往復2時間、家での身支度や入浴に2時間、睡眠7時間で、最低11時間は必要だという指摘もあります。*6

このように、一定の休息時間を確保することで、労働者が十分な生活時間や睡眠時間を確保でき、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることができるようになると考えられているのです。

努力義務と導入割合

実は、勤務間インターバルの設定は企業の努力義務となっています。*5
その努力義務は、2018年7月に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」によって、労働時間などの設定の改善に関する特別措置法(労働時間等設定改善法)が改正されたことに伴うものです。

しかし、その導入は進んでいるとはいえません(表1)。*7:p.10

出所)厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」p.10
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/21/dl/gaikyou.pdf


「勤務間インターバル制度」を導入しているのは、全体のわずか4.6%、「導入を予定又は検討している」が 13.8%、「導入予定はなく、検討もしていない」が 80.2%となっています。

また、勤務間インターバルは、企業規模が大きくなるほど短いことがわかります。

「勤務間インターバル制度」の導入予定はなく、検討もしていない企業について、その理由別割合をみると(複数回答)、「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」が57.4%で最も多く、次いで「当該制度を知らなかったため」が19.2%(全企業に占める割合は 15.4%)となっています。

制度の普及をめざして

以上のような状況を打破するために、政府は2025年までに「勤務間インターバル制度」を知らない企業の割合を5%未満にするとともに、導入企業の割合を15%以上にするという目標を掲げています。*5

その具体策をみていきましょう。

「働き方・休み方改善コンサルタント」の派遣

企業が無料で活用できる制度があります。
 「働き方・休み方改善コンサルタント」は、社会保険労務士の資格を持つ人など、労働関係法令・制度に専門的な知識を持つ人の中から、都道府県労働局長が任用した非常勤の国家公務員です。*8

このコンサルタントは、ワーク・ライフ・バランスの実現のため、長時間労働の削減や「勤務間インターバル制度」の導入、年次有給休暇の取得促進、特別休暇制度の導入など、企業の労働時間設定の改善に向けた幅広い取組みについて、丁寧にアドバイスを行います。*5

この制度には以下の3つの活用方法があります。

  1. コンサルティング(個別訪問によるアドバイス)
    コンサルタントが事業場に出向き、労働時間や休暇制度の状況を診断したうえで、アドバイスや改善に向けた具体的な提案、資料の提供を行う。

  2. 説明会への講師派遣 
    労働時間や休暇制度に関する説明会などに、講師としてコンサルタントを派遣する。

  3. 研修会(ワークショップ)の開催
    長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得向上に成果を上げている事例などを教材として、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現に関する研修会を開催する。

「時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」

「勤務間インターバル制度」の導入、拡充を目指す中小企業への助成金制度もあります(2023年度の交付申請申請期限は2023年11月30日まで)。*9

以下の図5は、この助成金の活用例です。*10:p.1

出所)厚生労働省「令和5年度「働き方改革推進支援助成金」勤務間インターバル導入コースのご案内」p.1
https://www.mhlw.go.jp/content/001082526.pdf

おわりに

睡眠時間が短いとわかっていても、その改善は従業員の個人的な努力だけでは実現しません。

従業員が必ず一定の休息時間を取れるようにする「勤務間インターバル制度」は個々の従業員の健康のためにも、企業の生産性向上のためにも有益な考え方です。

折しも政府は「勤務間インターバル制度」の普及のために支援制度を整えています。その活用を視野に入れ、この制度の導入・拡充に向けて前向きに検討してみてはいかがでしょうか。