人事部の資料室

女性の登用や年齢は影響力がある? 管理職の属性が組織にもたらす影響とは

作成者: e-falcon|2023/04/18

組織において大きな役割を担う管理職。管理職に就いている人の性別や年齢などの属性は、組織にどのような影響を与えているのでしょうか。

省庁や研究機関の調査結果を中心に、女性管理職に関する推移と、管理職の年齢推移を押さえ、その状況が組織にどのような影響を与えているのかを、事例や調査結果からみていきます。

女性管理職の推移

まず、管理職全体に占める女性割合の推移をみていきましょう。

女性管理職割合の推移

下の図1は、管理職に占める女性割合の推移です。*1:p.6

出典:厚生労働省「「令和3年度雇用均等基本調査」結果を公表します ~女性の管理職割合や育児休業取得率などに関する状況の公表~」p.6
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/07.pdf


この図をみると、係長相当以上の管理職に占める女性の割合(上から3番目の折れ線)は、2009年度が10.8%、2021年度が14.5%と上昇しています。

また、2009年度と2021年度を比べると、係長・課長・部長相当職の単独の割合はいずれも上昇しています。しかし、それぞれの数値をみると、2021年度の係長相当職は18.8%、課長相当職が10.7%、部長相当職は7.8%となっています。
このことから、特に上位の役職への女性登用は、まだそれほど進んでいるとはいい難い状況がみえてきます。

なお、2015年度(平成27年度)は、女性管理職の割合が2013年度に比べて全体的に上昇していますが、この年は、女性管理職比率の数値目標などを義務づけた、いわゆる「女性活躍推進法」が成立した年です。*2, *3

ただ、対象者が変われば、状況も少し変わります。
図1は企業規模が10人以上を対象にしていますが、下の図2は、常用労働者100人以上の企業に属す労働者のうち、雇用期間の定めのない労働者を対象にしています。*4:p.57

出典:国土交通省「令和3年版 国土交通白書 >第1部 第2章 第3節 多様化を支える社会への変革の遅れ>世界各国との比較」p.57
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r02/hakusho/r03/pdf/np102300.pdf


図2の左図「民間企業の女性管理職比率」をみると、2020年の係長相当職は21.3%、課長相当職11.5%、部長相当職は8.5%と、図1の同年度の数値をそれぞれ2.6%、0.7%、0.1%、上回っています。
企業規模や雇用形態によって数値が異なることがわかりますが、いずれも図1とかけ離れた数値ではなく、1990年と比べると大きな上昇がみられるものの、女性管理職の割合は現在でも決して高くないことがわかります。

女性管理職割合の国際比較

日本は国際的にみて女性管理職の割合が低いとよくいわれますが、それは本当でしょうか。

以下の図3の左図は、女性人口に占める女性就業者の割合と、管理職に占める女性の割合を表しています。*4:p.58

出典:国土交通省「令和3年版 国土交通白書 >第1部 第2章 第3節 多様化を支える社会への変革の遅れ>世界各国との比較」p.58
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r02/hakusho/r03/pdf/np102300.pdf
 

女性就業者割合の51.8%は諸外国に比べてやや高水準であるものの、女性管理職の割合は低水準です。
また、右図の役員に占める女性の割合をみると、日本は10.7%と、諸外国に比べて非常に低い水準であることがわかります。

管理職の年齢と役職

次に、管理職の年齢についてみてみましょう。

役職別の年齢推移

下の表1は、管理職の平均年齢を役職別にまとめたものです。

参考:厚生労働省「賃金構造基本統計調査の概況」令和3年(*5:p.14)、平成28年(*6:p.16)、平成23年(*7:p.16)を基に筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/dl/13.pdf
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2016/dl/13.pdf
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2011/dl/data.pdf


この表をみると、いずれの役職も、2011年、2016年、2021年と年を経るにつれ、平均年齢が少しずつ高くなっていることがわかります。

管理職の年齢構成と勤続年数

次の表2はやや古いデータですが、管理職の年齢構成を表しています。*8:p.10

出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「男女正社員のキャリアと両立支援に関する 調査結果 ̶ 第1分冊 本編 ̶ 」(2013年3月)p.10
https://www.jil.go.jp/institute/research/2013/documents/0106-01.pdf


表2で管理職の年齢構成をみると、300人以上規模では男女ともに40歳代から50歳代前半に多く分布し、45~49歳層(それぞれ23.0%、26.6%)が最も多くなっています。
一方、100~299人規模では、男女とも45歳以上から55歳以上層に分布し、300人以上規模より年齢が高いことがわかります。

新入社員が役職に就くまでの期間

では、新入社員が入社してから役職に就くまでにはどのくらいの期間を要するのでしょうか。

図4は、新入社員(大卒総合職または基幹的業務を担う社員)が、役職に就くまでの平均的な期間を表しています。*9:p.45

出典:厚生労働省「参考資料 ―女性の活躍推進に向けた新たな法的枠組みの構築について(報告)―」p.45
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/sankoushiryou.pdf


この図をみると、新入社員が最初の役職である主任・係長に就くまでの平均的な期間は、中小企業・大企業ともに10〜14年が最も多くなっています。
また、課長相当職に就くまでの平均的な期間は、15年目以上が多くなっています。

管理職の属性が組織にもたらす影響

では、これまでみてきた管理職の属性は、組織にどのような影響をもたらすのでしょうか。

女性管理職の影響

独立行政法人 労働政策研究・研修機構は、「男女正社員のキャリアと支援両立に関する調査結果(2)―分析編―」で、女性管理職特有の影響について分析しています。

それによると、子どもをもっている女性管理職は、女性正社員の部下に対し 「出産・育児関係」などで配慮する傾向がみられるということです。*10:p.229

また、100~299人規模の企業では、「能力ある女性を昇進させるよう人事部門に働きかける」ことに関して、転職経験がない女性管理職より転職経験がある女性管理職の方が、より強い傾向がみられました。*10:p.230

さらに、自身が昇進希望をもつ女性管理職は、女性正社員の部下に対して
「管理職昇進への意欲を持つよう働きかける」
「能力ある女性を昇進させるよう人事部門に働きかける」
「男女区別なく評価し、昇進させる」
など、「管理職登用・評価関係」を中心に積極的に育成する傾向があります。 *10:p.233
なお、こうした傾向は、企業規模や管理職の性別にかかわらず認められます。

女性の役職登用が進まない要因の1つに、女性の昇進意欲が低いことが挙げられますが、女性が活躍できる職場状況を整えることで、女性も男性と同様に仕事への意欲を高めることができると同調査結果から分析されています。*10:pp4-5

では、女性管理職の登用に積極的な企業は、どのような影響があると認識しているのでしょうか。

金融・保険業は女性管理職の比率が低い業界ですが、北海道銀行は女性管理職の登用人数が確実に増加し、2021年3月末の女性管理職比率は16.8%です。*1:p.8, *11-1
同行の人事部の担当者は、女性管理職が増えたことで、男女問わず女性上司を持つ職員が増え、努力次第で誰もが評価されるという考えが浸透したと述べています。
ロールモデルが身近に存在するようになったことで、女性職員の上位職を目指す意識も大きく変わりました。

社会福祉法人の太田福嗣記念会は、2021年時点で女性の管理職が管理職全体の65%を占めていますが、採用面で企業のイメージアップにつながっていると感じているそうです。*11-2

同じく社会福祉法人のあすなろ会でも、女性管理職の比率は40%に上ります。同会の理事長は、女性管理職が増えたことで女性職員のモチベーションが上がり、「自分たちも頑張れば管理職になれる」という意識が生れてきたと感じているそうです。*11-3

このように、女性管理職の登用を進めている企業での認識は、独立行政法人 労働政策研究・研修機構の上述の調査結果分析と合致しています。

管理職の年齢・役職の影響

上述の「男女正社員のキャリアと支援両立に関する調査結果(2)―分析編―」によると、女性管理職、男性管理職ともに、管理職の年齢の違いが、少なくとも部下(女性正社員)の育成に積極的かどうかには、あまり影響をおよぼしていないとのことです。*10:p.227

ただ、先ほどみたように、管理職の職位の高さは、年齢と正比例しています。
したがって、年齢という属性の影響は、役職の違いに現れているといっていいでしょう。

では、役職の違いは職場にどのような影響を与えているのでしょうか。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「働く人の仕事と健康、管理職の職場マネジメントに関する調査結果」を基にみていきましょう。

なお、この調査で対象にしている職位は、課長相当、部長相当とそれぞれのライン職(部下がいて、管理監督業務を行っている管理職)・スタッフ職(指揮命令できる部下がおらず、もっぱら与えられた業務をこなす管理職) *12:p.312、支社長・事業部長相当、役員相当です。

決定権限

調査結果によると、管理職の職位が高いほど、以下のような事項に関する決定権限が与えられている割合も高くなっています。*13:pp.55-61

その項目とは、正社員・職員の採用、人員配置、人事考課、ボーナス等賃金、懲戒処分、解雇、中長期的な自業運営方針・計画、必要人員の計画、業務に必要な経費、人件費、勤務先全体の事業運営に関する重要な計画の立案や決定、です。

決定権限がないからといって上のような業務に全く関与していないというわけではありませんが、職位が低い管理職、つまり若い管理職が組織に与える影響は限定的だと考えていいのではないでしょうか。
もし、若い管理職に組織変革をおよぼすような影響力を望むとしたら、こうした状況を見直す必要があるかもしれません。

なお、同調査から、同じ職位の場合、ライン職の方がスタッフ職より決定権限をもっている割合や、関与している割合が高いことがわかっています。

マネジメント度

別の視点からもみていきましょう。
管理職は自分自身が担当する仕事を持ち、一般業務をこなしながら(プレイヤーの役割)、部下の労務管理や部署運営などの職場管理(マネジャーの役割)を行っています。
そのうちマネジメント度の割合は、職位の高さに比例して高くなっています。*13:pp.52-53

このことから、職位の低い管理職は職場寄り、職位が高い管理職は経営寄りといえるかもしれません。
上述のように、職位の低い管理職は重要事項における決定権限はないものの、職場でともに働く社員に対して、身近な存在ゆえの影響力をおよぼす可能性があるでしょう。

では、部署での管理と、部下の指導や育成に対する自己採点はどうなっているでしょうか(表3、表4)。*13:p.54


出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「働く人の仕事と健康、管理職の職場マネジメントに関する調査結果」(2022年3月)p.54
https://www.jil.go.jp/institute/research/2022/documents/0222.pdf


上の表3、部署の管理に対する自己採点では、課長相当と部長相当は70点と80点が多いのに
対して、支社長・事業部長相当と役員相当は、80点以上が多くなっています(表3)。

下の表4、部下の指導や育成に対する自己採点をみると、割合が多い層は役職にかかわらず50点から80点にかけて分散していますが、最も多い割合は、課長相当が50点、部長相当が70点、支店長・事業部長相当が80点となっています。

他の調査項目からも、職場マネジメントに関して、役員未満は忙しく、職場管理について苦労が多い一方で、職場マネジメントに積極的に取り組んでいることがわかっています。
その影響か、他の役職に比べてプレイヤー度が高いライン職の課長は、実労働時間が長い傾向にあり、残業も比較的多い傾向がみられます。
女性の昇進意欲が低いことには、こうした事情が絡んでいるのかもしれません。

このように、管理職といっても、職位によって事情が異なり、それによって組織におよぼす影響も違ってくるでしょう。

属性のみの影響力は限定的?

以上みてきたことから、管理職の属性のみが組織に与える影響は限定的だといえるのではないでしょうか。

たとえば、女性管理職や若い管理職を増やしても、その管理職がどのような働き方をするか(できるか)、あるいは組織内の重要事項に対してどの程度の権限をもつことができるかは、その属性のみによって決まるわけではありません。

ある属性の活躍を願うのであれば、そのことにも留意し、組織全体のあり方を見直すことも同時に行っていく必要があるのではないでしょうか。