人事部の資料室

就職に強く求人倍率50倍も 専門職不足のいま注目される「高専生」の魅力とは

作成者: e-falcon|2023/08/01

少子高齢化による人手不足だけでなく、IT化やDXを担う人材の不足は国内で大きな課題になっています。
そこで、大学・大学院卒の新規採用だけでなく、高等専門学校(高専)生への注目が集まっています。

中学卒業の早い段階から専門性の高い教育を受けている高専生は、IT分野の即戦力として期待されているのです。

高専生の就職の実態や、高専生を採用するコツについてご紹介します。

IT人材は2030年には45万人不足

企業でのIT人材不足は年々深刻なものになっています。

情報処理推進機構の「IT人材白書2020」によると、企業のIT人材不足は年々高まっています(図1)。

(出所:「IT人材白書2020」情報処理推進機構)
https://www.ipa.go.jp/archive/publish/hjuojm0000007e6n-att/000085255.pdf p33


「不足している」と回答している企業の割合は年々増え続け、2019年度の調査では3割を超える企業が「大幅に不足している」としています。

さらに経済産業省によると、IT人材の不足感は今後も高まり続け、2030年には約45万人が不足すると試算されています(図2)。

(出所:「IT人材需給に関する調査(概要)」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/gaiyou.pdf p2


そこで、専門職の即戦力として注目されているのが高専生の採用です。

高専生の進路・就職率

高専は5年間の一貫教育課程の形を取っています。最初は一般科目を中心に授業は進んでいきますが、特に4年目以降、専門科目の割合がどんどん大きくなり、5年目には授業内容のほとんどが専門科目に費やされています(図3)。

(出所:「KOSEN National Institute of Technology」国立高騰専門学校機構)
https://www.kosen-k.go.jp/Portals/0/resources/letter/kouhou/gaiyou2020.pdf p7


大学生でいう1年目から、ほぼ専門科目に時間を充てている状態ということができます。
また、海外との交流もあるほか、10代のうちから各種学会で論文発表などを行っています*1。

特に近年はDX時代に向けた教育に力を入れており、セキュリティコンテスト、セキュリティウィンタースクールを全国の高専で実施している他、地元の小中高生や保護者向けのサイバーセキュリティに教育に関するボランティアを実施しているという高専もあります*2。在学中に、すでに地域の「先生」の顔を持つようになっているともいえます。

就職率はほぼ100%

高専には、上記5年の「本科」と、その後2年間の専門教育を行う「専攻科」とがあります。それぞれの卒業後の進路は下のようになっています(図4)。

(出所:「KOSEN National Institute of Technology」国立高騰専門学校機構)
https://www.kosen-k.go.jp/Portals/0/resources/letter/kouhou/gaiyou2020.pdf p16


そして、それぞれの就職率はほぼ100%という水準です(図5)。

(出所:「KOSEN National Institute of Technology」国立高騰専門学校機構)
https://www.kosen-k.go.jp/Portals/0/resources/letter/kouhou/gaiyou2020.pdf p16


各所で即戦力として求められている様子がうかがえます。

企業からの熱視線 求人倍率50倍も

さて上述のようにIT分野の教育にも力点を置くようになった高専では、在学中にAI分野のスタートアップを立ち上げたという学生もいます*3。

そして近年、IT人材の即戦力として、多くの企業が高専生に注目しています。

富山県の高専では求人倍率が1人あたり50倍ほどになっているほか、IT企業などが自ら出資して高専を設立する動きもあります*4。
徳島県・神山町の「神山まるごと高等専門学校」は名刺管理サービスSansan創業者の寺田親弘社長が発起人となり、ゲーム開発のアカツキやさくらインターネット、三井不動産、コクヨなどのそうそうたる企業が出資者として名を連ねています*5。

神山町といえば、早期に高速インターネット回線を導入してIT系人材などを受け入れるサテライトオフィスを設置した場所としても知られています*6。
立地条件は非常に良いといえるでしょう。

魅力の高専生、どう採用する?

このように求人倍率の非常に高い高専生を採用するにはどうすれば良いでしょうか。

まず最初に知っておくべきことは、多くの高専が毎年就職活動の時期になると学内で説明会を開催することです。
ただ、これについても大手SIerが「卒業生の採用実績などがなければ新たに入り込めない」と語るくらいには参加そのものが難しいようです*7。

よって、まずは「採用実績」を作ることです。
また、高専の中には企業とのコラボレーションを実施しているところもありますので*8、そのような場所に魅力的な機会を提供できるかどうかもカギになります。

また、都立産業技術高専の田中淳氏によれば、高専生の就職にも「ミスマッチ」が生じていることで不合格になる学生がいるということです。具体的には以下のような内容です(図6)。

(出所:田中淳「新卒採用における合格・不合格の原因」経済教育39号)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ecoedu/39/39/39_37/_pdf p40


人事担当のコメントとしては、このようなものがあります(図7)。

(出所:田中淳「新卒採用における合格・不合格の原因」経済教育39号)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ecoedu/39/39/39_37/_pdf p39


こうした高専生の特徴をどこまで活かし、どこまでフォローできるかも重要になりそうです。

いずれにせよ、高専生の需要は今後ますます高まることでしょう。
採用の過程で学生と直接触れる時間はそう長くはありません。印象だけで採用・不採用を決めるのではなく、冷静なスキル分析やインターンシップなどでより深く学生を知る努力が必要といえます。