人事部の資料室

労働市場の二極化とは? 産業構造の変化を見すえて今後の人事・採用に役立てよう

作成者: e-falcon|2022/05/22

OECD(経済協力開発機構)は労働市場の二極化が進んでいるという調査結果を報告しています。*1
専門知識や専門的技能が必要な「高スキル」業務と特別な専門知識や技能は必要としない「低スキル」業務、そしてそれらの中間的な業務の構成割合に変化が生じてしているというのです。

このことは、労働者に求められる能力やスキルが変化していることを示しています。
今後の採用や人事を考える上で、産業構造の変化について理解することは重要です。

本稿ではこの問題について日本の現状を把握した上で、必要とされる能力やスキルとそれらを向上させる方法について考えます。

労働市場の二極化

日本の状況

まず、労働市場の二極化について、日本の状況をみてみましょう(図1)。*2

出典:経済産業省(2019)「第四次産業革命に向けた産業構造の変化と方向性に関する基礎資料」p.18
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/2050_keizai/pdf/006_05_00.pdf

アメリカでは、専門・技術職などの高スキル職や、医療・対個人サービスなどの低スキル職で働く人が増加する一方、製造や事務などの中スキル職が大幅に減少しています。

図1からも同様の状況がみえるでしょうか。
この資料の説明では、日本でも高スキル職と低スキル職が増える一方で、中スキル職が減少しているとしています。
たしかに、1985年-1995年、1995年-2005年の区分ではそのような状況がみられますが、2005年-2015年をみると、低スキル職も減少し、増加しているのは高スキル職だけに見受けられます。

こうした状況を別の資料でより詳細にみていきましょう。

業務内容の5タイプ

業務の内容に関する分類で有名なのは、Autor, Levy and Murnane(2003)によるもので、業務内容を主に以下の2つの観点を組み合わせて分類しています。*3

1) 定型的か非定型的か:定型的な業務とは、ある一定基準の正確な達成と繰り返しが求められる業務。一方、非定型的とは、創造的な思考や直感力、説得力を持って課題を解決する業務で、専門的、技術的、管理的あるいは創造的な職種で重視される業務。
2) 知的作業か肉体作業か

こうした基準で分類されているのが、以下の5つのタイプです。

・非定型分析業務:高度な専門知識が求められる業務
・非定型相互業務:高度な対人コミュニケーションが求められる業務
・定型認識業務:事務など
・定型手仕事業務:製造業、農林水産業
・非定型手仕事業務:状況に応じて個別・柔軟な対応が求められる業務。例えば、運転手や清掃などの仕事。

みずほ総合研究所は、アメリカの職業情報データベース「Occupational Information Network:O*NET」と総務省「国勢調査」の職業小分類を活用して、日本における上の5つの業務の構成図を作成しました(図2)。

O*NETとは、アナリストや労働者へのアンケー ト調査から900以上の各職業について必要とされる知識やスキル、業務などの情報を指標化したデータベースです。

出典:みずほ総合研究所(2018)「デジタル時代に必要なスキルとは 自律的な学習と適切なスキルの組み合わせが重要」p.3
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/mhri/research/pdf/insight/jp180910.pdf

図1と図2を照らし合わせると、左の2つの業務「非定型分析」と「非定型相互」は高スキル、真ん中の「定型認識」は中スキル、右の2つの「非定型手仕事」と「定型手仕事」は低スキルとされていますが、図1では製造業は中スキルに、図2では低スキルに分類されており、ズレがみられます。

タイプ別労働市場の変化

次に、上の5つの業務構成比がどのように推移してきたかみてみましょう(図3)。*3

出典:みずほ総合研究所(2018)「デジタル時代に必要なスキルとは 自律的な学習と適切なスキルの組み合わせが重要」p.3
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/mhri/research/pdf/insight/jp180910.pdf

図3をみると、アメリカ同様、日本でも「非定型分析」と「非定型相互」の増加が続いており、2005年以降は特に増加幅が大きいことがわかります。
一方、「定型手仕事」と「非定型手仕事」は減少傾向が続いています。

「定型認識」はアメリカでは2005年まで増加傾向が続き、その後横ばいに転じていますが、この調査では増加しています。
みずほ総合研究所はその原因を、高齢化などに伴う看護師などの医療従事者やIT化を背景に、システムコンサルタント、インターネット通販の拡大などに対応するための電話応対事務職が増加したことだろうと推測しています。

いずれにせよ、「非定型分析」と「非定型相互」が増加していることは図1ともアメリカの動向とも一致しています。

産業構造の変化

ここで、産業構造の変化についてみていきましょう。

先端技術の影響

「非定型分析業務」と「非定型相互業務」が増加している原因として、RPA(Robotic Process Automation)やAIといった革新技術が企業の中に浸透し始め、これまでにないレベルで業務の自動化が進んでいることが指摘されています。*3
これまで経験や判断が必要とされてきた分野まで自動化することが可能になってきているのです。

しかし、先端技術によって将来どの業務がどの程度自動化され、産業構造がどのように変化していくのか予測するのは非常に難しいといわれています *4。

例えば、先端技術の影響が大きいとする研究では、コンピュータ技術によって日本の労働人口の49%がAIやロボットに代替可能であり、次のような職業はその可能性が高い傾向があるとしています。*5

・必ずしも特別の知識・スキルが求められない職業
・データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業

しかし、このような推計結果は過大であるという意見もあります。*4

総務省は様々な研究結果をふまえて、以下の図4のような変化が起こるのではないかと推測しています。

出典:総務省(2018)「平成30年版 情報通信白書:第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd145210.html

まず、AIの導入によって機械化が進むとみられる職業ではタスク量が減少します。
その一方、AIを導入・運用するために必要なシステム開発やシステム運用などでタスク量は増加します。また、AIを活用した新たなサービス業などの職業が登場して、それによってもタスク量が増加します。

したがって、AIの導入が進めば、機械化が可能な職業に就く人が減る一方で、AIを導入・運用する職業や、AIの登場によって新しく生まれる職業などに就く人は増加すると考えられるのです。

アフター・コロナの産業構造

国内外の識者120人がアフター・コロナの社会変化を予測した結果があります。 *6
その中で、産業構造に関する予測は以下のようなものです。

・飲食業や観光業は産業規模としてかなり縮小
・オンラインによる新ビジネスが続々登場
・リモート化、分散化など新しいライフスタイルに伴う需要が拡大
・3密対策を盛り込むなどこれまでにない市場セグメントが登場

それに伴い、各産業分野は以下の図5のように変化すると考えられています。

出典:NEDO国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2021)「コロナ禍の社会変化と期待されるイノベーション像/バイオものづくりの可能性」 p.16
https://www.jba.or.jp/web_file/NEDO.pdf


モノからヒトへと比重が移り、どの産業分野においてもデジタル化が進展します。
また、各分野の成長度合いを比較すると、コロナ禍後に縮小が予想されるのは製造業、大きく拡大するのは情報・通信分野や金融・保険分野です。
そうした変化と連動して、労働者の移動も増加するでしょう。

これから重要となるスキル

最後に、現在急速に増加しつつある「非定型分析業務」と「非定型相互業務」に求められるスキルについて具体的に考えます。

「非定型分析業務」を行うためのスキル

「非定型分析業務」で最も重要なのは「アクティブラーニング」です。*3
変化が激しく多様性が増す環境下では、必要な情報やノウハウも変化し、それらを積極的に学ぶ姿勢が必要です。

また、文章の内容や他人が言ったことを正しく理解し、それに対する自分の意見を表現するために、読む・書く・話すといったコミュニケーション能力が求められます。
問題の本質を整理し、課題の解決策を提示するための意思決定・論理的思考「クリティカルシンキング」「システム分析」「システム評価」や複雑な問題解決のためのスキルも重要です(図6)。

出典:みずほ総合研究所(2018)「デジタル時代に必要なスキルとは 自律的な学習と適切なスキルの組み合わせが重要」p.4
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/mhri/research/pdf/insight/jp180910.pdf

「非定型相互業務」を行うためのスキル

「非定型相互業務」で最も重要なのは「インストラクション」です。*3
チーム・組織を基軸とした視点で、効果的に仕事を遂行するための方法や仕事を他者に教えるスキルの必要性が高いのです(図7)。

出典:みずほ総合研究所(2018)「デジタル時代に必要なスキルとは 自律的な学習と適切なスキルの組み合わせが重要」p.5
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/mhri/research/pdf/insight/jp180910.pdf

この業務が上でみた「非定型分析業務」と異なるのは、様々な関係者と適切なコミュニケーションを図るために、「調整」「説得」「交渉」「社会 的視座」といった対人関係スキル、「人材管理」「モニタリング」といったメネジメントスキルの重要性が高い点です。

スキル向上のポイント

上でみた2つの非定型業務に共通して大切なのは、「アクティブラーニング」や「学習戦略」といった、自律的に学ぶ力です。*3
さらに、適切なスキルを複数組み合わせて使う能力も必要です。

内閣府が委託実施した調査結果によると、OJT(仕事を通じた能力開発)、OFF-JT (仕事を離れて行われる能力開発)、自己啓発を行った人の割合はどれも年齢を増すとともに減少傾向にあります。*7

企業がOJTやOFF-JTTの機会を提供することが自己啓発につながるという調査結果もあります。企業は若年層だけでなく、中堅層・管理職層のスキル開発の機会を増やす必要があるのです。

人事業務の担当者は以上のような知見を生かし、今後の業務において重要なスキルを的確に把握して人事・採用に役立てるとともに、重要なスキル・能力開発に向けて有益な方策を立てる必要があるのではないでしょうか。