人事部の資料室

「離職する人が少ない大企業」100社ランキング 離職者が少ない企業は何をしているのか

作成者: e-falcon|2023/08/20

毎年、「離職する人が少ない大企業」100社ランキングが公表されているのをご存じでしょうか。
2021年、そのランキングのトップを飾った企業は、離職者数が少ないだけでなく、離職率もわずか0.5%でした。

ランキング上位の企業は、働きやすい環境を整えるために、どのような取り組みをしているのでしょうか。
それらの取り組みから、働きやすい職場づくりのヒントを探ります。

2021年のランキング

東洋経済は毎年、「離職する人が少ない大企業」100社ランキングを公表しています。*1-1
2021年度の同ランキングは、同社が刊行した『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』2023年版のデータを使って作成されました。なお、同書はCSR(企業の社会的責任)の専門情報誌です。*2

対象は2020年度、従業員1,000人以上の会社で、離職率も表示されています。*1-1
まず、そのランキングをみてみましょう(表1)。*1-2

参考)東洋経済オンライン「「離職する人が少ない大企業」100社ランキング」p.3より抜粋
https://toyokeizai.net/articles/-/645239

 
ちなみに、ランキング対象と同年の2021年、全国の離職者数は717万2,500人で、離職率(常用労働者数に対する離職者数の割合)は13.9%でした(図1)。*3p.7

出所)厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」p.7
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/22-2/dl/gaikyou.pdf


それと比較すると、ランキング上位の企業の離職率は極めて低いことがわかります。

離職者が少ないことは、働きやすい企業の指標となります。*1-1
ランキング上位の企業はどのような職場づくりをしているのでしょうか。

充実した人材育成とキャリア形成支援

1位はスポーツアパレルのゴールドウインで、従業員数1,110人に対して離職者はわずか5人、離職率もランキングトップの0.5%でした。
同社はどのような取り組みをしているのでしょうか。

手厚い人材育成

ゴールドウインは従業員こそが最大の資産であり、革新性・創造性を持った従業員を育て、多様なナレッジを共有していくことが組織を強くすると考えています。*4:p.71

そのため、長期的視点に立って、社員1人ひとりの成長をサポートするために、充実した研修制度を整備しています(表2)。

出所)ゴールドウイン「ゴールドウイン統合報告書」p.71
https://corp.goldwin.co.jp/cgi/wordpress/wp-content/themes/goldwin/resources/corporate/pdf/info/ir/integrated/GOLDWIN_integrated2022_spread.pdf


表2(上表)のように、大きな柱は階層別研修、管理職研修、選抜研修、全体研修の4つで、社内講師と外部講師によるプログラムを組み合わせて、創造性やイノベーションが引き出せるように、さまざまな機会を設けています。

キャリア形成の支援

同社は年1回、部長職以下の全従業員(契約社員も含む)に「キャリアデベロップメントカード」への回答を求めています。*5
このカードは、オンラインアンケート形式で、自身のキャリアへの考え方や業務上の課題について尋ねるものです。その後、それをもとに上長と面談を行います。

アンケート項目には、異動の希望も含まれ、全社的な人材配置の資料として活用されています。「キャリアデベロップメントカード」への回答を通して、従業員は今後自分がどのように働きたいか、希望所属部署や勤務地を会社に伝え、それらの選択に主体的に関わることができます。
このシステムを通じて、2021年度は内勤者87名、販売118名が異動希望を出し、そのうち17名が希望部署に異動しました。

また、従業員1人ひとりが、社会の変化を認識した上で現在の自分の状況を客観的に把握し、未来を生き抜くための自分自身の力を考える機会を提供するために、定期的にキャリアコンサルティングを実施しています。
それとは別に、希望者はキャリアコンサルタントによる個別面談を通年で受けることができます。

さらに年に1回、年代別のキャリアワークショップを開催して、それぞれのライフステージに応じて従業員が自分のキャリアを見つめ直す機会を提供しています。
2022年1月の40sライフプランセミナーには40代総合職140名、同年2月の30sライフプランセミナーには30代総合職150名が参加しました。

同社は、新規部署の立ち上げなどにあたり、従業員の希望を重視した異動の仕組みとして、その部署に希望する人材を配属できるよう、必要に応じて社内公募も行っています。

応募した従業員は該当部署と人事部の審査を受け、業務に必要な基準を満たしていると判断された社員の中から厳正に選出されます。

販売員のための仕組み

同社では、直営自主管理店の店頭に立つ販売員が、顧客との双方向コミュニケーションを通じて自社が開発した商品の情報を顧客に適切に伝えることができるように、年1回、接客ロールプレイングコンテスト「セールスコンベンション」を実施しています。*5

こうして、販売員が自らの接客スキル向上を目指すように、モチベーションを高めているのです。

また、販売職には年次有給とは別に最大14日連続で休暇が取得できる「バカンス休暇」制度もあります。*6

エンゲージメント向上と女性活躍推進

次にみていくのは、ランキング2位に並ぶ3社のうち、日清オイリオです。
同社は社員1,230人中、離職者は13名で、離職率は1.1%でした。

CSVの目標

以下の図2は、同社のCSVの目標です。*7:p.53

出所)日清オイリオ「統合報告書 2022」p.53
https://www.nisshin-oillio.com/assets/pdf/company/sustainability/report/2022/nisshin_oillio2022_a3.pdf


「CSV」とは、「Creating Shared Value」の略で、「共有価値の創造」、「共通価値の創造」などと訳されています。*8
この「共通価値」とは、「企業が事業を営む地域社会や経済環境を改善しながら、自らの競争力を高める方針とその実行」とされています。

では、具体的な取り組みとはどのようなものでしょうか。

女性活躍推進

同社では、性別や年齢を問わず多様な人材を登用し、能力や資質を最大限発揮できる機会の提供や組織づくりを進めています。*7:p.53

特に「女性活躍推進」に力を入れていて、女性社員を積極的に採用し、女性活躍推進行動計
画に基づいて、キャリア形成支援や女性が活躍できる職場環境の整備を進めています。 

たとえば、「男性社員および女性社員ともに育児休職取得率100%」という目標を掲げ、育児と仕事の両立のために、制度と職場環境づくりの実現に取り組んでいます。
2022年4月からは、育児休職の対象となる社員は上長と面談し、育児休職を取得することを原則としています。

このようにして、男性社員も含めた働き方を見直し、働き方の男女差を解消し、生産性向上とワーク・ライフ・バランスの両立を目指しているのです。

また、将来の管理職育成を目的とした研修や、社内の重要プロ ジェクトへの積極的なアサインなど、計画的な育成も同時に進めています。
その結果、組織の中核業務を担う女性社員は着実に増えてきました。

こうした取り組みが認められ、厚生労働省の「えるぼし認定(2段階目)」(女性活躍推進に関する取り組み状況が優良な企業に与えられる)と、「プラチナくるみん認定」(次世代育成支援対策推進法に基づく優良な子育てサポート企業に与えられる)を取得しています。

社員のエンゲージメントの向上

同社は、社員のエンゲージメントを高めるための諸制度・環境づくりを進めています。
社員1人ひとりが経営理念やビジョンを認識し、社内のコミュニケーションが活発になり、「働きがい」や「働きやすさ」を感じる職場環境の整備をすることが大切だと考えているからです。*7:p.54

その一環として、同社は2021年度からエンゲージ メント調査を実施しています。
その目的は、会社全体と各職場におけるエンゲージメントの状態を定量的に可視化し、課題を把握して、全社的な人材戦略と職場のマネジメントに活用するためです。

調査結果は役員と各組織の役職者で共有し、エンゲージメント向上に向けたセミ ナーを開催するとともに、よりよい職場づくりを実現するために振り返りを行い、各組織のエンゲージメント向上に向けたアクションプランの策定と改善行動につなげています。

さらに同社は、健康経営にも積極的に取り組み、疾病予防や食習慣改善、禁煙の支援、運動・コミュニケーション促進などの取り組みを進めています。

社員の離職を防ぐためには

経済産業省が公表した資料には、エンゲージメントの強化が離職防止につながることが指摘されています(図3)。*9:p.9

出所)経済産業省「経済産業省主催 経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会 「 平成30年度 産業経済研究 委託事業 」 第2回研究会」p.9
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jinzai_management/pdf/002_02_00.pdf


離職率を、エンゲージメントスコアが上位の企業と下位の企業とで比べると、離職率の高い組織間での比較では24%、低い組織間での比較では59%の差が存在するのです。

ところが、従業員エンゲージメントの国際比較では、世界全体のエンゲージメントが20%なのに対して日本はわずか5%であり、「現在の勤務先で働き続けたい」と考えている人も52%にすぎません。*10:pp.33-34

どうしたら社員が「いつまでもこの会社で働き続けたい」と思えるような職場になるのか。「離職する人が少ない大企業」100社ランキングの上位企業の取り組みから、そのヒントが見出せるのではないでしょうか。