人事部の資料室

なぜ今、戦略人事の時代なのか 従来の人事との違いを事例をもとに見てみよう

作成者: e-falcon|2022/11/06

グローバル化、デジタル化、少子高齢化など、激しく変化するビジネス環境の中で注目されているのが「戦略人事」です。

企業活動のリソースは「カネ」「モノ」「ヒト」が柱です。
このうち、「カネ」「モノ」をどう使うかは外部との競争が強く意識され、経営陣が関与することの多い要素ですが、これらに比べ「ヒト」については全社戦略として意識されていないケースが多く見られます。

そうではなく、これからは「ヒト」というリソースも外部との競争で優位に立つための戦略的な資本とする、これが「戦略人事」です。

どのようなものなのか、具体的に見ていきましょう。

「戦略人事」が注目される背景

近年、株主総会の質問が変化しつつあります(図1)。

(出所:経済産業省「事務局説明資料(経営戦略と人材戦略)」)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/001_04_00.pdf p8

やはり一番多いのは「経営政策・営業政策」次いで「配当政策・株主還元」についての質問です。しかし近年の動向を見ると、「リストラ・人事・労務」に関する質問が順位を上げているのです。

そして、企業の人材マネジメントの課題としては、「人事戦略が経営戦略に紐づいていない」というものが最も多くなっています(図2)。

(出所:経済産業省「事務局説明資料(経営戦略と人材戦略)」)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/001_04_00.pdf p14


これでは、「ヒト」というリソースをうまく活用できていないということになります。また、ステークホルダーからの信頼にも関わることになります。

経営戦略にきちんと紐づいた人事を進めていく、これが「戦略人事」です。

従来の「日本型」人事が抱える課題

ここで、日本企業と外資系企業の人事に関するデータをご紹介します。

まず、人材の移動・配置方法について日系企業と外資系企業では下のような違いがあります(図3)。

(出所:総務省「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jinzai_management/pdf/20190329_02.pdf p7


日系企業と外資系企業で大きく異なる点を見ていきましょう。特に管理職と総合職系の非管理職社員についてです。

まず管理職については、日系企業では「職種横断的」な異動・配置であるのに対し、外資系企業では同一の職種群での異動・配置が主流になっています。

そして、社員の役割や職種をどのように決めているかという点です(図4)。

(出所:総務省「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jinzai_management/pdf/20190329_02.pdf p8


日系企業が「内部公平性」を重視する傾向にあるのに対し、外資系企業は「外部競争力」を重視した人材マネジメントを実施しているのです。

競争がシビアになっていく時代において、日本企業はこのままで良い、とは思えないのではないでしょうか。

これからの人事に求められる方向性

上記のような特徴は、日系企業の「新卒一括採用」「年功序列」「同質性」といった性質から生まれています。

そして経済産業省は、これから求められる雇用コミュニティのあり方について、下のような方向性を提示しています(図5)。

(出所:経済産業省「事務局説明資料(経営戦略と人材戦略)」)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/001_04_00.pdf p4

内部公平性を重視するあまりクローズドな人材コミュニティになってしまうのではなく、外部からの中途採用、あるいは再入社などという形で、外の世界を知り、競争力を高める人材戦略を取る必要性があるということです。

そして、経営戦略にもとづいた「戦略人事」に繋げるには、以下のようなフローが求められます(図6)。

(出所:経済産業省「事務局説明資料(経営戦略と人材戦略)」)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/001_04_00.pdf p15


日本企業に多い「玉突き」や「年齢に応じたポストを振り分ける」人事ではなく、明確な経営戦略があり、それを遂行することが人事の柱になっていく必要があるというわけです。

一手段としての「能力の見える化」

では、どのように戦略人事を組み立てていけば良いのでしょう。
もちろん、経営戦略が明確であることが最も重要ですが、ひとつの手段として注目されているのが「ピープルアナリティクス」です。

各社員の傾向をデータとして「見える化」し、適材適所に生かすというものです。

国内の企業の中では、生産性や業績向上のためにピープルアナリティクスを活用している事例も出てきています。

例えば、医療・介護分野で人材紹介・派遣を手がけるベンチャー「レバレジーズメディカルケア」では、チャットツールでのメッセージのやりとりからその人材の傾向や業績との相関を分析するシステムを導入し、人事に活用するという手段を取っています*1。

また、臨床検査機器などの開発・製造・販売・輸入を手がける「シスメックス」では、一般社員のポジショニングにおいて、希望と組織・上司が欲しいポジションの人材をアルゴリズムを用いてマッチングさせ、いわゆる「配属ガチャ」を防止する手段を取っています*2。

これらは生産性や業績の向上のために使われていますが、ここに経営戦略をかけあわせた人材分析をすることも可能です。一般社員だけでなく、管理職にも適応できるようになるでしょう。年功や過去の経験にとらわれない客観的な事実を利用することは、日本企業の風土を大きく変えるものとして期待できそうです。

戦略人事の鍵は弾力性と攻めの姿勢

「この人材は、社風に合うかどうか」
多くの企業が採用にあたって関心を持つことですが、「戦略人事」では問いの立て方が変わります。

「外の変化に対応できる人材か否か」
「自社の事業を取り巻く環境をどれだけ知っているか」
「自社にどんな変革をもたらしてくれるか」
そのような多角性も必要だと言えるでしょう。

もっと言えば、「自社の経営戦略の中でどのようなポジショニングをしてくれるか」
「自社の経営戦略の延長線上にいる人材かどうか」
といった見極めです。

また、データによる人材管理は、「温情」といった日本企業特有の慣習を排することもできます。

ピープルアナリティクスはあくまで手段の一例ですが、戦略人事の実施は、他社との競合の中で強みを見つけ強みに集中する。ドラッカーの教え通りでもあります。

内部でポストを競わせている余裕などないのです。