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同一労働同一賃金とは? パート・契約社員を雇用する企業がしてはならない待遇差別を弁護士が解説

作成者: e-falcon|2023/02/12

パートタイム・有期雇用労働法*1では「同一労働同一賃金」が定められており、正社員と非正規社員(パート・契約社員など)の間で不合理な待遇差を設けることは禁止されています。

今回は同一労働同一賃金について、違法な待遇差別の判断基準や具体例などをまとめました。

同一労働同一賃金とは

「同一労働同一賃金」とは、正社員と短時間労働者(パート・アルバイトなど)・有期雇用労働者(契約社員)の間で、不合理な待遇差を設けることを禁止するルールです(パートタイム・有期雇用労働法8条、9条)。

言い換えれば、雇用形態にかかわらず「同じ仕事・同じ責任を課すのであれば、同じ待遇を与えるべき」ということです。非正規社員だからという理由だけで、正社員よりも待遇を低く抑えることは認められません。

すべての待遇が同一労働同一賃金の対象|不合理な差別は禁止

同一労働同一賃金は、基本給のみならず、あらゆる待遇について適用されます。
(例)
・基本給
・賞与
・退職金
・各種手当
・福利厚生
・教育訓練
など

たとえば、

「非正規社員は全員賞与なし」
「非正規社員は全員退職金なし」
「非正規社員には通勤手当を一律支給しない」

といった対応は、同一労働同一賃金に違反する可能性が高いものです。待遇差を設けるのであれば、「非正規社員だから」ではなく、別の合理的な理由が存在しなければなりません。

正社員と非正規社員の待遇差が認められる場合

同一労働同一賃金は、あくまでも正社員と非正規社員の不合理な待遇差を禁止するルールです。待遇差を設けることについて合理的な理由があれば、同一労働同一賃金には抵触しません。

たとえば以下のような場合には、正社員と非正規社員の間で待遇差を設けることも認められます。

  • 正社員の確保・定着を目的とする場合
  • 能力に差がある場合
  • 業務内容に差がある場合
  • 業務上の責任に差がある場合
  • 配置転換の範囲に差がある場合

正社員の確保・定着を目的とする場合

賞与や退職金については、正社員の確保や定着を目的として支給される側面があります。

正社員は、会社の中核的な労働力として、長期にわたって会社に貢献することを期待される立場です。
会社としても、長期勤続を前提として正社員を雇用し、その教育訓練にコストをかけます。そのため、正社員が短期間で退職してしまうことを防ぐ目的で、継続勤務に報いる賞与や退職金を設けるケースが多いと考えられます。

このような賞与や退職金の性質上、非正規社員に対して、正社員と同等の賞与・退職金を支給すべきとは言い切れない部分があります。
このように、正社員の確保・定着を目的として与えられる待遇については、正社員と非正規社員の間で一定の差を設けることは認められる可能性が高いでしょう。

能力に差がある場合

能力の高い従業員に対して高待遇を与えることは、優秀な人材が他社へ流出することを防ぐために必要な対応といえます。

単に「正社員だから」という理由ではなく、「能力が高いから」という理由で正社員に高待遇を与える場合は、同一労働同一賃金の違反に該当しません。

業務内容に差がある場合

一般的に、正社員は会社の中核的な業務を担う一方で、非正規社員は補助的な業務を担う傾向にあります。

正社員と非正規社員の間で、業務の量・質・難易度などに差がある場合には、それに応じた待遇差を設けることは当然であり、同一労働同一賃金に反しません。

業務上の責任に差がある場合

正社員は、会社の中で責任ある立場を任されることが多いといえるでしょう。正社員がミスをすれば、懲戒処分や昇進の遅れなどの形で責任を取らされる傾向にあります。

これに対して非正規社員は、正社員の指示・監督の下で業務を遂行し、ミスが発生してもその責任は正社員がとることが多いと考えられます。

このように、正社員と非正規社員の間で、業務上の責任の程度に差がある場合には、それに応じた待遇差を設けることは同一労働同一賃金に反しません。

配置転換の範囲に差がある場合

会社から配置転換が命じられた場合、新しい業務に適応しなければならず、そのために時間と労力を割くことになります。さらに転勤が命じられた場合には、生活の拠点を変えなければならず、時には家族と離れ離れになってしまうこともあります。

労働契約において配置転換があり得る旨が定められていれば、配置転換命令が合理的である限り、従業員はそれを拒否することはできません。その反面、配置転換のリスクを負う従業員に対しては、配置転換のない従業員よりも高待遇を与えることが合理的と考えられます。

労働契約の内容によりますが、(伝統的な)正社員については、転勤を含む幅広い配置転換が認められることが多いでしょう。
これに対して非正規社員の場合、勤務地と職種が限定されており、配置転換は行われないか、またはきわめて狭い範囲に限られるのが一般的です。

このように、正社員と非正規社員の間で配置転換の範囲に差があることを理由に、正社員の待遇を高く設定することは同一労働同一賃金に反しません。

同一労働同一賃金に違反した企業が負うリスク

同一労働同一賃金に違反すると、パートや契約社員から待遇差の補填を請求されるおそれがあります。

たとえば最高裁令和2年10月15日判決では、郵便会社の契約社員に対する以下の待遇設定が、同一労働同一賃金に違反していると判断されました。

  • 正社員に対して与えられていた夏期休暇と冬期休暇が、契約社員には一切与えられていなかった。
  • 年末年始の勤務につき、正社員に対して支給されていた年末年始勤務手当と祝日給が、契約社員には一切支給されていなかった。
  • 扶養家族がいる正社員に対して支給されていた扶養手当が、契約社員には一切支給されていなかった。
  • 正社員に対して認められていた有給の病気休暇が、契約社員には一切認められていなかった。

正社員と非正規社員の待遇差が不合理・違法と判断された場合、会社は多額の追加人件費の支出を迫られる可能性があります。
また、労務紛争の対応は時間とコストを要するほか、大々的に報道されれば会社のレピュテーションにも悪影響をもたらしかねません。

従業員とのトラブルのリスクをできる限り抑えるためにも、同一労働同一賃金の考え方を踏まえて、各従業員の待遇を適切に設定すべきでしょう。

まとめ

働き方の見直し・多様化の流れが加速する中で、同一労働同一賃金への注目度も高まっています。

パートや契約社員を雇用する企業は、待遇を設定するに当たり、現代における同一労働同一賃金の考え方を強く意識しなければなりません。同一労働同一賃金を徹底することは、労務コンプライアンスの強化に繋がり、会社の安定的な成長を促進します。

「パートや契約社員は低待遇」という偏見は、働き方改革全盛の現代にマッチしていません。このような偏見は捨て去り、「優秀な人材を適正な待遇で雇用する」という意識にシフトすることが、会社に求められる心がけといえるでしょう。