人事部の資料室

会社に関わるすべての人が幸せになれば、会社も元気になる 「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」とは?

作成者: e-falcon|2024/03/31

「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」とは「人を幸せにする経営」を選び、経済産業大臣賞、厚生労働大臣賞などを授与する表彰制度です。

この場合の「人」とは、顧客だけでも、従業員だけでもありません。応募要件は過去5年間にわたって「リストラをしていない」など6項目のすべてに該当すること。

「人を幸せにする経営」とはどのようなものでしょうか。「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」を通してその本質について考えます。

なぜ「人」なのか

言葉にすることは簡単で、言葉にすれば美しい。でも、実践するのはとても難しいのが「人を幸せにする経営」です。

「人」とは誰か

「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」(以後、「大賞」)が考える「人を幸せにする経営」の「人」とは、単に顧客だけ、あるいは従業員だけではありません。*1

ここでいう「人」とは、以下のすべてを指します。

  1. 従業員とその家族
  2. 外注先・仕入先(取引先とその家族)
  3. 顧客(現在顧客と未来顧客)
  4. 地域社会(地域住民、とりわけ障がい者や高齢者等社会的弱者)
  5. 株主(・支援団体)

上の1~5の(   )内の言葉は、経営学者の坂本光司氏・「大賞」の主催者の1つである「人を大切にする経営学会」会長の言葉です。*2

同氏は、日本の企業の多くはまだまだ間違いだらけの経営を行っていると語ります。
それはどういうことでしょうか。

誰かの犠牲の上に成り立つ経営は欺瞞

経営者の判断ミスによって業績低下を招いたにもかかわらず、希望退職の募集や拠点の統廃合・売却などのリストラ計画が相次いで発表されている。*2
それどころか、希望退職者を募集している企業の多くは、利益が下がったとはいえ、黒字経営。しかも、企業の役員報酬は大半が3,000万円以上、なかには1億円以上の企業もある。

より恐ろしいのは、リストラや不公平に慣れっこになってしまって、こうした重大な問題や現実を指摘する声がほとんど聞かれなくなってしまっていることだ。

坂本氏はそう指摘します。
首を切られ路頭に迷わされて、幸せを感じる人などいません。

「誰かの犠牲の上に成り立つ経営は欺瞞であり、そうした組織は社会的公器ではなく、社会の寄生虫に過ぎない」

同氏はそう断言します。

世界の企業観・経営観は変わってきている

日本経済新聞は、2019年8月20日、米主要企業の経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が同月19日、「株主第一主義」を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言した、と報道しました。*3

この声明には、同団体の会長を務めるJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOのほか、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOやゼネラル・モーターズ(GM)のメアリー・バーラCEOなど181人の経営トップが名を連ねています。

賛同企業は顧客や従業員、取引先、地域社会、株主といった全ての利害関係者の利益に配慮し、長期的な企業価値向上に取り組むという内容です。

これは坂本氏が以前から提唱している「5人の幸せ」「5方良しの経営」と見事に合致しています。*2

ところが、残念なことに、この歴史的宣言文はその後、大きな話題にならず、日本の経済界や教育界など、各界各層に広がりをみせることはありませんでした。

その理由は、日本の経営者の多くが、「株主第一主義」「顧客第一主義」を志向し、自社の社員を「売上を上げるための手段・コスト」として位置づけているからだと、同氏は考えています。

一方で、「人を幸せにする経営」をしている会社は、全国各地に少なからず存在しています。

人を幸せにしていれば結果的に業績も上がるはず。そういう会社を掘り起こし、1社でも増やしたいという思いで「大賞」がスタートしたのです。*1

応募要件は6つ

「大賞」の応募要件は、過去5年にわたって、以下の6項目全てに該当していることです。*1

  1. 希望退職者の募集や人員整理(リストラ)をしていない
  2. 重大(死亡や重傷)な労働災害を発生させていない
  3. 一方的なコストダウン等理不尽な取引きを強要していない
  4. 障がい者の雇用率は法定雇用率以上である
    *常勤雇用43.5人以下の企業で障がい者を雇用していない場合は、障がい者就労施設等からの物品やサービス購入等、雇用に準ずる取り組みがあること
    **本人の希望等で、障がい者手帳の発行を受けていない場合は実質で判断する
  5. 営業黒字で納税責任を果たしている(除く新型コロナウイルスの感染拡大の影響等による激変)
  6. 下請代金支払遅延等防止法等の法令違反がない

「日本でいちばん大切にしたい会社」はこんなところ

「大賞」に選ばれたのは、どのような会社なのでしょうか。

多様な従業員が集まる会社

霊柩車を正門の前に遠慮がちに停めると、工場の前には社長以下、会社の社員が全員、整列していました。*2
車が見えると、全員が帽子を取り、車に向かって深々とお辞儀をします。
そして、車が再び動き出すと、ちぎれんばかりに帽子を振って見送りました。

自分が死んだら棺の中に、自分がいつも着ていた会社の制服を入れてほしい。火葬場に向かうときには、自分が毎朝、通勤していたのと同じ道を走ってほしい。そして、会社の前にさしかかったら、そこで車を停めてほしい。

それが、ある社員の遺言でした。

「企業経営の真の使命と責任は、社員とその家族の永遠の幸せを追求・実現すること」―坂本氏が言い続けていることです。
社員であったときだけでなく、退職した後も、もっといえば死んでからも、社員やその家族から心底愛される会社づくりや経営をしなければならない、と。

それを実現しているのが、「大賞」第5回審査委員会特別賞を受賞した、フジイコーポレーション株式会社です。*4

サンタクロース村公認の除雪機

同社は新潟県燕市に本社工場を構える、創業1865年のものづくりの会社です。社員113名(2023年5月)、代表的な商品は除雪機で、同社の除雪機はフィンランドのサンタクロース村の公認除雪機として認定されています。また、世界各国に輸出され、極寒の南極で越冬隊が使用する除雪機は、ほぼすべてフジイ除雪機です。*5, *6, *2

出所)フジイコーポレーション株式会社「フォトギャラリー」
https://www.e-fujii.co.jp/company/photo/index.html


同社の除雪機は、他社がいやがる小ロット・多品種の、小型から大型までのラインナップを揃え、特殊用途市場向け(障がい者向け)の除雪機も作っています。
サンタクロース村から公認されたのは、こうした同社の努力が評価されたからです。*2

同社は内閣総理大臣表彰の第4回ものづくり日本大賞優秀賞、文部科学大臣表彰の創意工夫功労者賞などを受賞、経済産業省「元気なモノ作り中小企業300社」に選定されるなど、ものづくり企業として高い評価を得ています。*5

社員を絶対リストラしない

創業1865年の同社では、現社長の藤井大介さんが5代目。跡継ぎ扱いされることに反発し、東京の高校、大学、大学院で学び、政府系の金融機関に勤務していました。*2
ところが、就職して6か月で父親が急逝。急遽、帰郷することになります。

「右も左もわからない」26歳の藤井氏がいきなり社長に就任したことで、社員たちは動揺しました。
当時は好景気で転職しやすい状況だったこともあり、ひどい年には70名も辞めていったといいます。

「私は社員に見限られたのです。しかしあのとき、見限られたほうはどうしようもなく切ないのだな、ということを痛いほど感じました。ですから、自分のほうから『やめてくれ』とか『あなたはいらない』とは絶対に言いたくないと思ったのです」

藤井社長は、どんなに業績が低迷しても、希望退職者を募ったり人員整理をしたりせず、社員の生活を守ってきました。

暖冬とリーマンショックの影響で売上高が半減してしまったときにも、断固としてリストラを拒否しました。
心配した金融機関の幹部から、どの会社でもやっていることだからと、希望退職を募ることを勧められても、
「社員のクビを切るくらいなら、会社を閉めます。社員と家族を守るのが経営者の責任です」
と断固として拒否しました。

結果としてのダイバーシティ

同社のカフェテリアには、老若男女、外国人、障がい者など、多様な従業員が集まります。

経営者の中には、ダイバーシティを実現すればなにかいいことが起きる、と勘違いしている人が少なからずいると、坂本氏は指摘します。

しかし、フジイコーポレーションは、社員が安全に、幸せに働ける快適な環境をつくろうと工場や社屋の環境を整えていったら、結果として多様な人々が集まる組織になってきたのです。

工場の床は膝にやさしいクッションが効いた塗料が塗られ、すべての箇所が段差のないバリアフリー。ケーブルなどの配線類や作業工具もすべて天井に上げてあります。

また、高さ制限を設け、什器や部品はすべて140センチメートル以下に収め、それ以上の高さにものを置いたり、積み上げてはいけないルールになっています。空間の有効利用を考えると非効率的ですが万一、地震があった場合に、荷崩れや落下物から従業員の頭を守るためです。

さらには、フォークリフトもなく、運搬用台車を使っています。排気ガスや暴走事故を防ぐためです。

一番大切なのは従業員の命だという同社の哲学が貫かれています。

そういう職場に集まった多様な従業員が、事業を広げる原動力にもなりました。
たとえば、語学に堪能な女性や外国人留学生が入社したことによって、同社の商品がこれまで以上にグローバル展開しやすくなり、除雪機の世界進出を支えています。

同社はこうした取り組みが評価され、経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」や厚生労働省「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度」にも認定されています。*5

自社がされて嫌なことは協力会社にもしない

フジイコーポレーションは協力会社や仕入れ先に対する姿勢でもぶれません。

基本姿勢は、「自分が相手の立場だったら、言ってほしくない、やってほしくないことは決して言わない、やらない」。

主力商品である除雪機のシーズンは冬ですが、その生産は1年を通じて行われ、毎月ほぼ同量の平準生産をしています。

支払い条件も相手の状況に十分耳を傾け、相手が理不尽だと思うような取り引きはしません。
取り引き先の選定も、相手の状況や地元を優先しています。

見学者や視察者の受入れ

企業はさまざまな社会財や公共財を活用したり、支援を受けたりしながら存在しています。その原理原則に則れば、企業の社会貢献、地域貢献は社会的責任であると坂本氏は指摘します。

その点でも、フジイコーポレーションは誠実な取り組みを続けています。
親子での仕事体験イベントでは、イベントに参加した子どもたちが本物の商品を作ります。
会社にとってはまったく利益がなく、手間がかかるだけのイベントですが、子どもたちがこうした体験からものづくりの大変さ、面白さを知ることができれば、未来のものづくりを支える基盤になるかもしれません。

また、それ以外に、国内外の小学生から企業の経営者を対象にして、年間500人以上の視察者を受け入れています。この規模の会社にとってはかなりの負担ですが、藤井社長は、これまで多くの企業や人々に支えられてここまでやってこられたことの恩返しだと捉えています。

「人を幸せにする経営」の本質

フジイコーポレーションの取り組みは、「人を幸せにする経営」の1つの形です。
同社が示しているように、会社に関わるすべての人が幸せになれば、会社自体も必然的に元気になるでしょう。

同社も含め、「大賞」を受賞した企業の取り組みは、「人を幸せにする経営」のさまざまな実践のあり方と企業の姿、そこで働く人々の様子、そして、経営の本質を鮮やかに示してくれています。

日本でいちばん大切にしたい会社大賞(受賞企業紹介)