人事部の資料室

二極化が進むテレワークと出社 人材確保に役立つのはどちら?

作成者: e-falcon|2023/09/05

コロナ禍で一気に導入が進んだテレワークですが、最近、企業のテレワーク実施率は低下傾向にあり、原則出社に回帰する企業も出始めています。

今後はテレワークと出社が二極化していくと推測する専門家もいます。
では、人材確保に役立つのは、どちらなのでしょうか。

テレワークと出社をめぐる最近の動向を探ります。

テレワークの実施率

まず、テレワークの実施率がどのように変化しているかみてみましょう。

図1は日本生産性本部による調査結果ですが、2023年1月のテレワーク実施率は16.8%で、過去最低だった16.2%に次いで低い割合です。*1:p.16

出所)公益財団法人 日本生産性本部「第12回働く人の意識に関する調査 調査結果レポート」(2023年1月27日)p.16
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/12th_workers_report.pdf


ここでのテレワークとは、「自宅での勤務」「サテライトオフィス、テレワークセンターなど特定の施設での勤務」「モバイルワーク(特定の施設ではなく、カフェ、公園など、一般的な場所を利用した勤務)」の総称です。*1:p.15

テレワークの導入が進んでいる東京では低下傾向がより顕著です。*2
東京都によると、テレワーク実施率は緊急事態宣言期間には60%台で推移していましたが、その後50%台に転じ、2023年4月には50%を割りこんで、さらに同年5月には44.0%にまで低下しています。

テレワーカーの満足度と継続意向

実際にテレワークをしている人は、テレワークに満足しているのでしょうか。

自宅勤務の満足度

上述の日本生産性本部の調査によると、テレワークの大多数を占める自宅での勤務について質問したところ、「効率が上がった」「満足している」と答えた人の割合はどちらも増加傾向にあります(図2)。*1:p.16

出所)(上図・下図とも)公益財団法人 日本生産性本部「第12回働く人の意識に関する調査 調査結果レポート」(2023年1月27日)p.16
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/12th_workers_report.pdf


2023年1月調査では、「効率が上がった」「やや上がった」の合計は66.7%、自宅での勤務
について「満足している」「どちらかと言えば満足している」の合計は87.4%にそれぞれ上昇し、いずれも過去最高となりました。

テレワークの継続意向とその理由

国土交通省による調査からも、テレワーカーの多くが継続を望んでいることがわかっています(図3)。*3:p.24

出所)国土交通省「令和4年度テレワーク人口実態調査-調査結果(概要)-」(2023年3月)p.24 
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001598357.pdf


図3をみると、約87%がテレワークの継続意向があります。
その理由は、「時間の有効活用」が約40%でもっとも割合が高く、次いで「通勤の負担軽減」となっています。

テレワークの意義

テレワークを推進する立場にある総務省は、テレワークの意義を列挙していますが、そのうち、労働者と企業に関連するものをピックアップすると以下のようになります。*4

  • 労働力人口減少のカバーに寄与
    ・女性・高齢者・障がい者などの就業機会の拡大
    ・「出産・育児・介護」と「仕事」の二者選択を迫る状況の緩和

  • ワーク・ライフ・バランスの実現
    ・家族と過ごす時間、自己啓発などの時間増加
    ・家族が安心して子どもを育てられる環境の実現

  • 地域活性化の推進
    ・移住・二地域居住や地域での企業などを通じた地域活性化

  • 有能・多様な人材の確保・生産性の向上
    ・柔軟な働き方の実現による、有能・多様な人材の確保と流出防止、能力の活用

  • 営業効率の向上・顧客満足度の向上
    ・顧客訪問回数や顧客滞在時間の増加
    ・迅速、機敏な顧客対応の実現

  • コスト削減
    ・スペースや紙などオフィスコストの削減と通勤・移動時間や交通費の削減

  • 非常災害時の事業継続
    ・オフィスの分散化による、災害時等の迅速な対応
    ・新型インフルエンザなどへの対応

テレワークに、こうしたさまざまなメリットがあるとすれば、出社勤務にシフトする会社があるのはなぜでしょうか。

出社勤務のメリット

上述の日本生産性本部の調査によると、テレワーカーであっても週5日以上出勤する人の割合は、1回目の緊急事態宣言が出ていた2020年5月には9.5%だったのに対して、2023年1月には19.5%に上っています。*1:p.16

ここでは、最近になって原則出勤にシフトした企業の事例をみていきましょう。

コミュニケーションの活性化

IT大手のGMOインターネットグループ各社は2023年2月から、これまで「原則、週3日出社・週2日在宅勤務」を推奨していた出社体制を廃止し、出社しての勤務を原則としました。*5

その決定には、従業員を対象にしたアンケートの結果が反映されているといいます。

同グループは、国内での新型コロナウイルス感染対策として、2020年1月から、いち早く在宅勤務体制に移行しました。

しかし、その後、ワクチン接種や国内における段階的な感染対策の緩和が進んだことか ら、2022年9月と12月に、従業員を対象にしたアンケートを行い、その結果を受けて、段階的に感染対策を緩和してきました。

特に2022年12月に実施したアンケートでは、およそ60%の従業員がパーティションのある執務室内では何らかの形でマスクを外して業務を進めていることがわかりました。
また、それに関連して、従業員たちは「声が聞き取りやすくなった」「表情や情報が伝えやすくなった、読み取りやすくなった」「コミュニケーションが活発になった」といったメリットを挙げていました。

そこで2023年2月に、「社内のパーティション撤去」、「従業員に対する行動規制の撤廃」を行い、どこでもマスク着用を任意としました。
出社しての勤務を原則としたのは、その一環です。

同グループは、従業員の意見を取り入れながら、コロナ禍にあっても従業員同士が最良のコミュニケーションをとれる方法を模索してきたといいます。
在宅勤務推奨を廃止することによって、社内でのコミュニケーションがより活発化、円滑化することが同グループの狙いです。

健康と経済の両立

コンサルティング会社Legaseedは、緊急事態宣言に際しては、新型コロナウイルスの実態がつかめていなかったため、安全性を優先させ、社員全員を在宅勤務としました。*6

その後、社員がストレスを感じないように、社員1人ひとりが自由に出社勤務と在宅勤務を選べる体制を取りました。

しかし、「在宅勤務と生産性」に関するアドビの調査で、在宅勤務によって「生産性が下がった」という回答が43%に上ったことがわかりました。
その理由は「勤務環境が整っていない」「集中しづらい」「コミュニケーションが取りづらい」などで、同社も同じ課題を感じていたといいます。

もともとオフィス移転を計画していた同社は、新型コロナウイルス感染拡大の第二波が収束に向かっていた2020年9月、衛生管理を徹底し、「出社したくなる仕掛け」を施した新オフィスに移転しました。
内装には2億円かけたということです(図4)。*7, *8

出所)PRTIMES 株式会社Legaseed「リモートワークで増す理念浸透の難しさ。社員が出社したくなる新しい取り組みを無料セミナーで公開」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000068.000056949.html

「健康と経済の両立」が実現する環境整備によって、感染リスクを抑えたいという気持ちと、生産性が高い環境で働きたいという相反する感情を社員1人ひとりが比較し選択した結果、2021年1月時点での出社率は90%に上りました。*6

同社の事業企画部によると、現在の出社率は98%で、面会での商談成約率もリモートの約4倍に増えているということです。*7

テレワークと出社、人材確保につながるのはどちらか

では、テレワークと出社とでは、どちらが人材確保につながるのでしょうか。

以下の図5は、総務省による調査の結果で、テレワークの利用状況を年代別にあらわしたものです。*9

出所)総務省「令和4年版 情報通信分野の現状と課題  第2部 第8節(3)テレワーク」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd238220.html


この図をみると、若い年代ほどテレワークの利用に積極的な傾向が強く、利用率は20歳代が35.1%ともっとも高くなっています。
また、「必要としていない」と考えている人の割合は20歳代が最も低くなっています。

さらに気になるデータがあります(図6)。*3:p.44

出所)国土交通省「令和4年度テレワーク人口実態調査-調査結果(概要)-」(2023年3月)p.44
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001598357.pdf


図6をみると、テレワーカーは非テレワーカーと比べて、テレワーク以外の働き方も利用している割合が高いことがわかります。
このことは、テレワークを導入している企業にはさまざまな働き方のオプションがあるということを意味していると考えていいでしょう。

専門家も、柔軟な働き方のメリットを軽視すると、人材獲得競争でのデメリットが大きくなり、若者や優秀な人材の離職を防げないおそれがあると指摘しています。*7

上述のように、在宅勤務に満足している人も、テレワークの継続を望んでいる人も90%近くに上るという状況は軽視できないでしょう。

ただし、上述の日本生産性本部の調査によると、テレワーカーの週当たり出勤日数は1~2日が24.3%、3~4日が30.8%、5日以上が19.5%を占め、テレワークと出社のハイブリッド型の働き方をしている人が多いことがわかります。*1:p.16
そうした方向性も有効かもしれません。

そして、上でみた事例が示しているように、出社を原則とする場合には、社員の意向を汲み
取り、社員が出社したくなるような環境を整備するなど、独自の対策を立てることも必要で
しょう。

テレワークには、コミュニケーションが難しいという課題の他に、人事評価の難しさといった課題もあります。*7
今後は、テレワークのデメリットを問題視してやめる企業と、さらに環境整備を進めていく企業に二極化していくだろうと予測する専門家もいます。

テレワークか出勤かという勤務形態は人材確保に大きく関わる要素です。
経営陣や人事担当者は慎重かつ柔軟に考慮する必要があるでしょう。