「最近、初期メンバーの離職が続いている」
「経営陣の意図が現場に伝わらず、すれ違いが増えた」
「以前のような、全員が同じ方向を向いていた熱量を維持するのが難しい」
企業の業績が伸び、仲間が増えるのは本来、喜ばしいはずです。しかし、多くの経営者や人事責任者は、組織が拡大するある局面で、強烈なブレーキがかかったような閉塞感に直面します。それが「組織の壁」です。
ビジネスモデルも優秀で、市場の追い風も吹いている。それなのに、なぜ組織の中に歪みが生まれてしまうのか?
今回は、企業成長の過程で必ず訪れる「30人・100人・300人の壁」の原因と、それぞれのフェーズで組織が次の成長段階に進むための効果的なアプローチを解説します。
創業期から30人未満のフェーズは、全員の顔が見渡せる一つの「チーム」です。経営者の背中を見て全員が走り、日常のコミュニケーションの中でビジョンを共有できていたため、細かいルールがなくても組織はスピード感を持って回ります。
しかし、30人を超えたあたりから、組織に少しずつノイズが混ざり始めます。
原因は、経営者の「目」と「声」が直接届く物理的な限界にあります。「言わなくても伝わっていたこと」が、新しく入ってきた社員には伝わらなくなるのです。結果として、カルチャーを熟知している初期メンバーと、新メンバーの間で「熱量の格差」が生まれ、社内に見えない壁を感じるようになります。
ここで多くの経営者が「自分がもっと現場に入って、直接熱量を伝えなければ」と逆行しようとしますが、実はそれがかえって組織化を遅らせる原因になります。
これまでの強みだった「トップダウン」を、あえて手放さなければならないのが、この最初の壁です。
この局面でやるべきことは、経営者の意思を翻訳して現場に定着させてくれる「ミドルマネジメント(中間管理職)」の配置、そして「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の明文化」です。 「言わなくても分かる」という暗黙の了解から抜け出し、企業の共通言語を仕組みに落とし込む。それが、次のステージへ進むための組織づくりの土台となります。
30人の壁を「人の配置」で乗り越えた先に待っている100人の壁は、これまでとは毛色が異なります。本質は、「社員全員の動向や業務内容を、お互いに把握しきれなくなること」。つまり、組織が完全に『構造化』されるフェーズです。
この規模になると、組織は「営業」「開発」「コーポレート」のように機能ごとに完全分業化されます。すると、かつての一体感は薄れ、「自分の部署の業務しか見えない」「仕事が部署内だけで完結してしまう」といった、組織の縦割り化が進んでしまいます。
「営業現場がどんな動きをしているのか、開発側に見えない」
「バックオフィス側がなぜそのルールを作ったのか、現場に意図が伝わっていない」
お互いのプロセスが見えないため、他部署へのリスペクトが薄れ、相互不信につながることもあります。さらに、経営陣との距離が遠くなった社員たちは、「自分はこの組織でどう評価されているのか」という不安を抱きやすくなり、これがエンゲージメントの低下や離職のトリガーになります。
100人の壁は、飲み会や「みんなで頑張ろう」といった感情論や単発のエンゲージメント向上施策だけでは、どうしてもカバーしきれない部分が出てきます。
必要なのは、徹底した「情報のオープン化」と「公平な人事評価制度」というインフラの構築です。 他部署の動きや会社の方向性をいつでも確認できる状態を作り、「どのような成果や行動が評価に繋がるのか」という基準を明確に定義すること。組織を「人への依存」から「仕組み」で動かすフェーズへの移行が必要です。
100人の壁をクリアし、仕組みで回るようになった組織が、次にぶつかるのが300人の壁です。ここまで来ると、組織は一つの「コミュニティ」から、より強固な「社会」へと変貌します。
コンプライアンスやガバナンス(統治)が強化される一方で、組織は急速に重たく、変化に対して鈍くなっていく傾向があります。
かつては「やろう」と決めた翌日には実行に移せていたはずが、1つの企画を通すためにいくつものレイヤーの承認が必要になり、合意形成のための会議が増殖します。現場からは「新しい挑戦を提案しても、手続きが多くて形になりにくい」「前例がないから通らない」という声が漏れ始め、いわゆる「大企業病」の兆候が現れます。気がついたときには、かつて最大の武器だったはずの「圧倒的なスピード感」が失われているのです。
このフェーズで起こりがちなのが、これまでに作り上げた仕組みが裏目に出て、新しい挑戦の足を引っ張ってしまうという現象です。
組織を守るために必要だった「丁寧な承認プロセス」や「ミスのない管理体制」が、皮肉にも、新しいアイデアをスピード感持って試すための最大の障害になってしまうのです。
300人の巨大な組織を一元管理で動かすのには限界があります。このフェーズでの効果的な対処法は、「事業部制組織」への移行による、組織のダウンサイジングです。
組織をいくつかの事業部に切り分け、それぞれの責任者に権限を委譲します。経営陣は日々のオペレーションから完全に離れ、中長期的な経営戦略や企業カルチャーの醸成に特化する構造へシフトしなければなりません。
社内に小さな経営単位をいくつも作り、それぞれの事業部がスピード感を持って動けるような「組織の再編成」へとシフトしていくタイミングと言えます。
多くの企業が組織の壁にぶつかると、「自社のマネジメントに問題があるのではないか」とネガティブに捉えがちです。
しかし、それは違います。 組織の壁は、次のステージへと進むステップで避けては通れない「成長痛」のようなもの。会社が順調に成長の階段を登っている何よりの証拠なのです。
30人の時は「伝える努力」を、100人の時は「仕組みへの投資」を、300人の時は「権限の委譲」を。 フェーズごとに求められる経営陣の役割は全く異なります。
これまでのやり方を大切にしながらも、そこに固執せず柔軟に変えていくこと。それこそが、次のステージへと進み、持続可能な成長へとつなげていくための大切な一歩となります。
ここまで組織の壁と対策について解説してきましたが、これらを一歩進めるために最も効果的なのは、組織をデータで客観的に捉えることです。
私たちイー・ファルコンも、かつて組織変革の過渡期において、今後の方向性に頭を悩ませた時期がありました。その際、自社の適性検査eF-1Gを用いて従業員のパーソナリティの傾向を可視化しました。「みんなで頑張ろう」という感情論だけに頼らず、組織の強みや隠れたストレスの原因をデータで掴み、それに基づいたマネジメントや理念刷新を行った結果、1年でエンゲージメントスコアをBBBからAAAへ向上させることができたのです。
組織が大きくなればなるほど、経営陣の「直感」だけで全員を把握することは難しくなります。だからこそ、主観を排除した『データ』を共通言語にして人と組織に向き合う。
それが、私たちがMVVとして掲げる「ポテンシャル・ディスカバリー」の原点であり、eF-1Gの根底にある思想です。