人事部の資料室

戦略人事のビジョンとは?戦略人事のビジョンの施策例と実践ステップ

作成者: e-falcon|2025/12/04

企業経営において、人材は最も重要な経営資源の1つです。

DX(デジタルトランスフォーメーション)や労働力不足、働き方の多様化など、企業を取り巻く環境が急速に変化する中で、従来の労務管理や採用業務のような守りの人事だけでは競争優位を築くことが難しくなっています。

そこでカギとなるのが、経営戦略の実現を人材の側面から支える「戦略人事」への変革です。

戦略人事のビジョンをいかにして描き、実践していくかをわかりやすく解説します。

戦略人事のビジョンとは

戦略人事のビジョンとは、企業の経営戦略や事業目標を達成するために、人事領域において「どのような状態を目指すのか」を明確にしたものです。

単なる人事業務の効率化や制度整備にとどまらず、経営目標の達成に直接貢献する「人的資本経営」の実現を支える役割を果たします。

戦略人事のビジョンは、人材の採用・育成・配置・評価・報酬などの人事戦略が、経営戦略と一致するよう設計し、経営層と人事部門が一体となって推進することが重要です。

戦略人事のビジョンの明確な定義により、組織全体が同じ方向性を向き、人材投資の効果を最大化できるようになります。

戦略人事と従来の人事の違い

戦略人事と、従来の人事の最も大きな違いは、その目的と立ち位置にあります。

従来の人事は、給与計算や勤怠管理、社会保険手続きなどの労務管理業務が中心でした。

法令遵守を前提とした、組織の安定的な維持・管理が主な役割であり、経営とは一定の距離がある「守りの人事」と位置づけられます。

一方、戦略人事は、経営戦略の達成が最大の目的です。

事業計画を実現するために、どのような人材が、いつ、何人必要なのかを算出し、その人材を獲得・育成・最適配置するための戦略を立案・実行します。

経営陣と同じ視座に立ち、事業の成長に貢献する「攻めの人事」であり、経営の戦略的パートナーとしての役割を担います。

戦略人事における人事部門の役割

戦略人事の役割を定義する上で世界的に広く知られているのが、経営学者のデイビッド・ウルリッチ教授が提唱した「ウルリッチモデル」です。

ウルリッチモデルでは、人事部門が果たすべき役割を以下の4つの領域に分類しています。

  • 戦略的パートナー(Strategic Partner):経営者とともに事業戦略を立案し、人材面から経営に貢献する役割
  • 変革の推進者(Change Agent):組織変革を主導し、新たな組織文化を醸成する役割
  • 従業員の代弁者(Employee Champion):従業員の意見を代弁し、働きやすい環境を整備する役割
  • 管理のエキスパート(Administrative Expert):給与計算や労務管理などの管理業務を効率的に遂行する役割

これらの4つの役割をバランス良く遂行することが、戦略人事の実現には不可欠です。

戦略人事のビジョンの施策例:採用戦略

戦略人事のビジョンを成果に結びつけるためには、具体的な施策に落とし込んでいかなくてはなりません。

戦略人事における採用は、単なる欠員補充ではありません。

中期経営計画や事業計画に基づき、「3年後に新規事業を立ち上げるためには、どのようなスキルセットを持つ人材が何名必要か」のような未来からの逆算で採用ターゲットを定義します。

有効な手法の1つが、企業が転職潜在層を含む候補者に直接アプローチするダイレクトリクルーティングです。

求人媒体に頼るのではなく、自社の魅力を主体的に発信し、事業戦略に合致する優秀な人材を能動的に獲得しにいく、まさに「攻めの採用」といえるでしょう。

戦略人事のビジョンの施策例:育成戦略

企業の持続的成長には、将来の経営を担うリーダーの計画的な育成が欠かせません。

そのために次世代の経営幹部候補を選抜し、計画的に育成・評価していく仕組みがサクセッションプランです。

例えば、ハイポテンシャル人材の選抜、個別の育成計画の策定、メンタリング制度の導入、ローテーション人事による経験の多様化などの取り組みが挙げられます。

これにより、経営環境の変化に左右されない安定したリーダー人材の供給が可能になります。

戦略人事のビジョンの施策例:配置戦略

従業員一人ひとりのパフォーマンスの最大化も、戦略人事の重要なミッションの1つです。

その鍵となるのが、従業員のスキルや経験、適性、キャリア志向などの情報を一元管理・可視化し、最適な人材配置を行うタレントマネジメントです。

例えば、ハイパフォーマーの行動特性やスキルを分析し、その要素を持つ人材を同じ役割に配置したり、新たな挑戦を求める従業員に、未経験の領域の業務を任せたりすることで、個人の成長と組織の活性化を実現します。

こうした適材適所の配置は、モチベーション向上や離職率低下にも有効です。

戦略人事のビジョンの施策例:組織開発

イノベーションは、個人の能力だけでなく、多様な人材が集うチームの中からも生まれます。

組織開発は、より高いパフォーマンスを発揮できる組織風土を醸成するため、チームメンバー同士の信頼関係を構築し、コミュニケーションを活性化させる取り組みです。

例えば、部門横断型プロジェクトの推進や1on1ミーティングの導入、チームビルディング研修の実施などが挙げられます。

それぞれの強みを発揮できる環境を整えることで、新たなアイデアや価値創造を促進し、組織全体の競争力向上が期待できるでしょう。

戦略人事のビジョンの実践によって期待される成果

戦略人事のビジョンを掲げ、具体的な施策を実行していくことで、企業にはポジティブな成果が期待できます。

戦略人事のビジョンの実践によって期待される成果を見ていきましょう。

経営目標達成に直結する「人的資本経営」の実現

人的資本経営とは、人材を「コスト」ではなく価値創造の源泉となる「資本」として捉え、最大限に価値を引き出すことで企業価値向上を目指す経営のあり方を指します。

戦略人事は、まさにこの人的資本経営を実現する重要なプロセスの1つです。

経営戦略と連動した人事戦略を通じて、事業成長に必要な人材への投資を最適化し、経営目標の達成を強力に後押しします。

離職率の低下と優秀な人材の定着率向上

サクセッションプランやタレントマネジメントによって従業員が自身のキャリアパスを明確に描き、成長を実感できる環境は、エンゲージメントを高め、離職率の低下に貢献します。

特に、将来を担う優秀な人材ほど、自身の成長機会や企業への貢献実感を重視するものです。

戦略人事は、彼らが「この会社で働き続けたい」と思える魅力的な組織を構築し、貴重な人材の流出を防いで定着率を向上させます。

組織全体のイノベーション創出と競争優位の確立

戦略人事は、多様なバックグラウンドを持つ人材の採用や、部門の垣根を越えた人材交流を促進します。

多様な人材がそれぞれの強みを活かし、自由に意見を交わせる組織風土は、新たなアイデアやイノベーションを生み出す基盤です。

硬直化した組織風土を打破し、変化に強く、新しい価値を創造できる組織へと変革することで、他社にはない独自の競争優位の確立が期待できるでしょう。

戦略人事のビジョン実践のステップ

戦略人事への変革は、一朝一夕には実現できるものではありません。

明確なビジョンのもと、計画的に進めることが成功の鍵となります。

戦略人事のビジョンを実践するためのステップを解説します。

現状把握

最初に行うべきは、自社の現状を客観的に把握することです。

経営層が抱える事業課題や現場が感じている人事課題、従業員のスキルレベルやエンゲージメントの状態などを情報収集し分析します。

例えば、経営陣へのヒアリングや従業員満足度調査(サーベイ)、勤怠データや人事評価データの分析などが有効です。

ここで得られた組織の現状が、以降のステップの土台となります。

ビジョン策定

現状把握で明らかになった課題と企業の経営戦略・事業戦略を踏まえ、目指すべき戦略人事のビジョンを策定します。

ビジョンでは、必要な人材像や育成方針、目指す組織文化などを明確化し、経営層と人事部門が共通理解を持つことが重要です。

明確なビジョンにより、戦略人事の取り組みに一貫性と方向性を持たせられます。

人材の可視化

ビジョンを策定したら、その実現に向けて、現在の人材がどのような能力や特性を持っているかを可視化しましょう。

従業員一人ひとりの基本情報に加え、スキルや経験、キャリア志向、価値観、ポテンシャルのような、これまで見えにくかった情報をデータとして把握します。

人材の可視化には、後述する適性検査やタレントマネジメントシステムの活用が有効です。

施策の選定

続いて、ビジョンと現状のギャップを埋めるための施策を計画します。

可視化された人材データをもとに、採用や育成、配置、評価制度の見直しなど、ビジョン達成に向けた具体的なアクションプランを作成しましょう。

各施策の優先順位を設定し、限られたリソースを最大効果の得られる領域に優先的に投下する計画を立案します。

実行と改善

策定した計画を実行に移し、その進捗と効果を定期的にモニタリングします。

計画通りに進まない場合は、その原因を分析し、軌道修正を行いましょう。

1度実行して満足するのではなく、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を回し、常に改善を重ねていくことが重要です。

継続的な実行と改善により、戦略人事のビジョンを実現し、持続的な組織成長を達成できるでしょう。

戦略人事のビジョンの実践に適性検査が有効な理由

戦略人事のビジョンを実践する上で、客観的なデータに基づいた意思決定が重要です。

採用での人材の見極めや既存人材の可視化において、従来の面接での印象や上司の評価などの主観的な情報だけに頼るのは、優秀な人材の見落としやミスマッチを招きます。

そこで力を発揮するのが適性検査です。

適性検査は、個人の認知能力や性格、行動特性、価値観、ストレス耐性など、目には見えにくい内面的な特性を科学的に測定できます。

これにより、採用の精度向上や育成計画・配置の最適化、ハイパフォーマー分析などが可能になります。

このように、適性検査は採用時だけでなく、配置や育成、組織開発など人事のあらゆる場面に有効です。

客観的な判断材料を提供し、戦略人事の精度と実効性を高めるツールといえるでしょう。

戦略人事のビジョンの実践に「eF-1G」

「経営戦略と深く連動し、客観的なデータに基づいて人材の価値を最大化する。」

これが、現代の企業に求められる戦略人事の姿です。

しかし、組織の変革は一朝一夕に成し遂げられるものではありません。

経営陣と人事部門が一体となり、明確なビジョンを共有し、計画的に施策を進めていくことが求められます。

その実現の鍵を握るのが、いかにして人材を可視化し、戦略的な意思決定につなげるかです。

弊社イー・ファルコンが提供する適性検査「eF-1G(エフワンジー)」は、まさにこの「人材の可視化」をサポートします。

eF-1Gは、単なる採用時のスクリーニングツールではありません。

個人の能力や行動特性を多角的に測定することで、採用はもちろん、入社後の育成や配置、抜擢、組織分析まで、戦略人事のあらゆるフェーズで一貫してご活用いただけます。

戦略人事のビジョン実現に向けた最初の一歩として、まずはeF-1Gで、自社の人材を客観的に「知る」ことから始めてみてはいかがでしょうか。