人事部の資料室

ガクチカはもう古い?採用手法の多様化が特徴 2024年新卒の採用活動最前線

作成者: e-falcon|2023/06/06

2023年度(2024年3月)卒業・修了予定者(以降、「24年卒」)を対象とした会社説明会が2023年3月1日に解禁され、採用活動が本格的に始まりました。
とはいっても、6月1日の採用選考活動解禁前に、既に多くの学生が内定を取得し、取得後も就職活動を継続しています。

本年度の採用状況にはどのような特徴があり、企業はどのような採用施策をとっているのでしょうか。
24年卒を対象とした採用活動の動向を探ります。

高い内定率と採用活動の早期化

24年卒の2023年3月時点での内定率は既に40%近くに上り、企業の採用活動の早期化が窺えます。まず、その状況をみていきましょう。

2023年3月時点での内定率とその背景

2023年3月18日時点で、24年卒の大学生の内定率は38.9%に上り、前年同時期に比べて9.9%上昇しています。これは、現行のスケジュールで就活が行われるようになった17年卒以降で最高の数値です。*1:p.1

専攻分野で比べると、文系35.4%に対して理系は47.3%と、理系のほうが10%以上高く、前年同時期と比較しても12.5%上昇しています。

その要因の1つとして、DX人材へのニーズが高まり、IT企業やメーカーだけでなく、多くの企業からのアプローチが増えていることが挙げられます。

日経クロステックが株式の時価総額の上位100社の中で、もともとIT人材を積極的に採用するIT企業やネット企業、ゲーム会社以外の企業88社を対象に緊急調査したところ、そのうちIT人材の採用枠を設けて募集している企業は28社、31.8%に上りました。*2

IT人材は、本来なら即戦力となる中途採用で採りたいところですが、転職市場はITエンジニアの争奪戦が厳しいという事情が絡んでいるという分析もあります。

以上のように、24年卒は選考のプロセスが早まっていることが窺えますが、この傾向は一部の業種や学生に限らず、幅広い業界で幅広い学生に内定が出ているのが24年卒の特徴の1つです。*1:p.3, p.2

ちなみに、一部の企業では、留学生や、体育会系の部活が忙しくて早めの就活が難しい人など、多様な価値観やバックボーンを持つ人材を獲得することを見据え、選考の山を3月と6月の2つ設けるところも出てきています。

大手企業の選考が本格開始され、その選考結果が出る6月以降までは、内定取得者でも就職活動を継続する学生が多いのが毎年の傾向ですが、24年卒も、早めに内定を受けた学生のうち71.9%が就職活動を継続しています。*1:p.3

就職・採用日程の形骸化

学生の就職・採用活動日程は、2017年度までは毎年度、日本経済団体連合会が策定した「採用選考に関する指針」を、関係省庁(内閣官房、文部科学省、厚生労働省、経済産業省)が経済団体に要請するという形で定められてきました。*3:p.1

しかし、2018年10月以降は政府が関係省庁連絡会議を開催し、当該年度の大学2年次に属する学生の「就職・採用活動日程に関する考え方」をとりまとめ、日程を決定しています。

24年卒の就職・採用活動日程は2021年11月に本連絡会議において以下のようにとりまとめられ、2022年3月、関係省庁が経済団体に対してその遵守を要請しました。 

  • 広報活動開始:卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降
  • 採用選考活動開始:卒業・修了年度の6月1日以降
  • 正式な内定日:卒業・修了年度の10月1日以降

こうした日程ルールが上述のように形骸化している背景には、インターンシップが採用と直結していることが挙げられます。

インターンシップと採用活動

「就職・採用活動日程に関する関係省庁連絡会議」が2022年7月から8月にかけて行った学生へのアンケート調査によると、約7割の学生がインターンシップに参加していました。*3:p.3

インターンシップと実質的な採用選考との関係については、46.4%のインターンシップに実質的な選考を行う活動が含まれ、インターンシップの参加後、54.3%の学生が「インターンシップ参加者を対象とした早期選考の案内」を受け、42.6%の学生が「エントリーの案内」を受けたと回答しました。

折しも2022年6月に改正された、文部科学省・厚生労働省・経済産業省の「3省合意」によって、一定の基準を満たしたインターンシップで企業が得た学生情報を、広報期間や採用期間開始以降に限り、企業の広報活動や採用選考活動に使用できるようになりました。*4

何が変わる?「産学協議会基準に準拠したインターンシップ」「ジョブ型研究インターンシップ」とは

「一定の基準」とは以下のようなものです。*5

  • 就業体験要件:実施期間の半分を超える日数を就業体験に充当
  • 指導要件:職場の社員が学生を指導し、学生にフィードバックを行う
  • 実施期間要件:汎用能力活用型は5日間以上、専門活用型は2週間以上
  • 実施時期要件:卒業・修了前年度以降の長期休暇期間中
  • 情報開示要件:学生情報を活用する旨を募集要項などに明示

対象は2025年3月に卒業・修了する学生(2023年度に3年生に進学した学生)で、2023年度に参加するインターンシップから適用されます(図1)。

出所)厚生労働省「令和5年度から大学生等のインターンシップの取扱いが変わります」
https://jsite.mhlw.go.jp/hokkaido-hellowork/content/contents/001408482.pdf


さらに、内閣官房は、2023年4月にインターンシップを活用した就職・採用活動日程ルールの見直しを発表しました。*6:p.1, p.3

この見直しでは、「専門活用型インターンシップ」で得られた学生情報を活用した採用に限って、広報活動開始(通常3月)以降であれば、採用選考活動開始(通常6月)を待つことなく、内々定を出すことができるとしています。
対象は2025年度(2026年3月)卒業・修了以降の学生です。

このように、インターンシップを採用に活用できるのは、25年卒、あるいは26年卒以降となっているのですが、実際には24年卒でも、企業が3年生を対象に夏に開くインターンシップの参加者の一部を選考に呼び、その年の秋から冬には内定を出す例が多くみられ、ルールは形骸化しています。*7

こうした背景には、売り手市場において、優秀な学生を早期に囲い込みたいという企業の意向があります。

採用見通し

民間企業を対象とした採用見通し調査で、23年卒と比較した新卒採用数を聞いたところ、24年卒は「増える」と回答した企業の割合が15.5%だったのに対し「減る」は3.6%という結果になりました。*8

従業員規模別に見ても、すべての規模で「増える」が「減る」を上回っています。
採用意欲が最も高い従業員規模は5,000人以上の企業で、プラス21.8%に上りました。300〜999人の企業ではプラス14.8%となり、大企業を中心に採用意欲が高いことが窺えます。

業種別でも、すべての業種で「増える」が「減る」を上回りました。コロナ禍の反動もあり、24年卒者への採用意欲は、比較可能な11年卒以降で最も高くなっています。

売り手市場における企業の採用施策

では、こうした売り手市場にあって、企業はどのような採用手法をとっているのでしょうか。

脱ガクチカ

24年卒の特徴として、コロナ禍が始まった2020年に入学したため、対面での学生生活や留学が難しく、中には希望に沿った学生生活が送れたとは言い難い学生たちがいることが挙げられます。*7, *9

これまで面接やエントリーシートでは、いわゆる「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」が定番で、留学やサークル活動などを挙げる学生が多くいました。
しかし、24年卒の採用では、コロナ下で活動が制限された学生生活に配慮する企業が相次いでいます。

日立製作所や日本マクドナルド、SUBARU(スバル)などは、エントリーシートのガクチカに関する設問をなくしました。また、日本生命保険は、「人生で最も力を入れて取り組んだこと」に置き換えています。アサヒビールは採用面接を担当する社員に、大学時代の活動だけで学生を判断しないよう求めています。

初任給のアップ

初任給の引き上げを検討する企業も少なくありません。*8
「既に取り組んでいる」と回答した企業は27.8%、「今後取り組む予定である」企業は27.1%で、計54.9%の企業が初任給の引き上げを実施、もしくは予定しています。
これは、23年卒の44.5%から10.4%も高い割合です。

画一的な人事施策からの脱却

24年卒採用に向けて見られる変化の1つは、多様な採用手法の導入です。

24年卒の採用に関する調査では、従業員5,000人以上の大手企業で、職務を明確にした「ジョブ型採用」を実施または予定する割合が、23年卒の実績を上回っています。*10
讀賣新聞のアンケートでは、導入済みあるいは検討しているという回答が3割に上りました。*9

ジョブ型というと、入社後に1回も職務変更がないというイメージですが、実際はそうではなく、23年卒にジョブ型採用を実施した企業への調査では、「入社後一度も職務変更がない」と回答したのは22.1%にとどまります。*10

入社前に配属先を確約するものの、実質的には一定の期間後、本人の意向も尊重した配置転換の可能性を残すメンバーシップ型雇用が大半を占めているのです。

現在はワークスタイルやキャリアの選び方など、個人の価値観が多様化しています。*8
ジョブローテーションで働きたいという人もいれば、専門領域で長くコツコツとスキルを磨きたいという人もいます。
したがって、一律のキャリアパスや人材育成手法では個人のニーズに寄り添えなくなっているという指摘もあります。

企業は従来のやり方や慣例にとらわれず、一律的・画一的な人事施策から脱却する必要があるでしょう。

多様な働き方

讀賣新聞のアンケートでは、採用活動にあたって学生にアピールしている働き方改革として企業の回答が最も多かったのは 「子育て支援や育児休業制度の充実」、次いで「在宅勤務などリモートワーク制度の導入」、「時差出勤など柔軟な就業時間」が続いています。*9

伊藤忠商事は、朝型勤務制度を導入しています。午後8時以降の残業を原則禁止し、午前5時から9時の勤務には割増手当を支給し、午後3時の早帰りも認めています。

希望しない部署や配属された任地を理由にした早期離職を防ぐために、ミスマッチの最小化に務めている企業もあります。
東芝は、初期配属を明確に示しています。三菱ケミカルも初任勤務地を採用選考時に通知しています。
勤務地を限定するエリア採用を拡大する企業も増えています。

採用方法

讀賣新聞のアンケートによると、「オンラインと対面を同程度併用する」という回答が65%を占めていました。オンライン重視は10%、対面重視はわずか4%でした。*9

オンライン選考は人柄が見えにくいという課題はありますが、海外や地方の学生も選考対象となるため、「選考に参加する機会を平等に提供できる」として手応えを感じている企業もあり、今後も多くの企業が活用を続けると見込まれています。

おわりに

既に多くの学生が内定を取得しているとはいえ、上述のように内定取得後も就職活動を続けている学生も含め、多くの学生が就職活動に勤しんでいます。
24年卒採用の特徴や最新動向を把握しつつ、柔軟な採用手法を駆使することが、有意義な採用活動につながるといっていいでしょう。