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大谷翔平選手も活用した「マンダラチャート」 書き方を覚え社会人スキルをアップしよう

作成者: e-falcon|2023/06/20

WBCで劇的な優勝を手にした「侍ジャパン」は、その後映画化され、再びファンの心を熱くしています。特にリーダー的な存在となり、投打でも柱となった大谷翔平選手の姿は印象深く、その後も大谷選手のプレーに注目し続けている方は多いことでしょう。

技術面だけでなく、立ち居振る舞いから垣間見える人柄でも多くのファンを引きつけている大谷選手について「どうやったらあんな人物になれるのだろう?」と多くの人が首をかしげています。

実は、その大谷選手の根源にあったのは「マンダラチャート」です。

これはビジネスパーソンの成長のためにも、今すぐに実践できる手法です。どのようなものなのか、ご紹介したいと思います。

「ドラ1 8球団」から「ゴミ拾い」まで

大谷選手は、高校生のときにはすでに「マンダラチャート」を作成しています。出身校である花巻東高校の佐々木監督が取り入れていたもので、9×9マス、合計81のマス目があるシートを用いたものです*1。

まず中心にあるマスに自分が達成したい「大きな目標」を記入します。そして、そのマスを取り囲む8つのブロックには、その目標を達成するために必要な要素を埋めていきます。

さらにその要素の外側の9マスには、それぞれの要素を満たすために日々行うべきことや意識すべきことを書き込んでいく、という具合です。

実際、大谷選手が高校生のときに作成していたマンダラチャートを見てみましょう。

(出所:「オオタニサンのマンダラチャート」日本医科歯科大学)
http://nms-neurosurgery.com/moritablog/405


中心の9マスのさらに中心、つまり最大の目標が「ドラ1 8球団」つまり、8球団からドラフト1位指名を受けるというものです。

このシートの作成が2010年、大谷選手は17歳のときですから、すでに大きな目標を持っていたことがわかります。

そして、周囲にある8マスには、その目標を達成するために必要なものとして「コントロール」「キレ」「スピード160km/h」「変化球」「運」「人間性」「メンタル」「体づくり」と書き込まれています。

さて、マンダラチャートの威力はここから始まります。

最初のマスを取り囲む8つまでは、ある程度思いつきやすい目標かと思います。
しかし今度は、その8つの目標を満たすためにさらに8つの要素を掲げているのです。

例えば「運」という目標達成のために、周囲のマスには

・ゴミ拾い
・部屋そうじ
・審判さんへの態度
・本を読む
・応援される人間になる
・プラス思考
・道具を大切に使う
・あいさつ

という8つの目標、というよりは、ここまでくると「具体的な行動」にまで落とし込まれています。
「ドラ1 8球団」という目標を達成するために、野球を離れたところの行動までも「日々やるべきこと」という段に落とし込み実行しやすくしているのがこのマンダラチャートの特徴なのです。

「千里の道も一歩から」を地で行く。これが大谷選手が実践してきたことです。

「5W1H」を軸にした課題の整理方法

さて、「目標を達成するための具体的課題を見つける能力」はビジネスにおいても必須です。

現・鳥取大学の桐山聰氏らが2007年に発表した論文では、ひとつの「思考支援ツール」が紹介されています。

これは、目標に対する課題や目標へのアプローチ方法を突き詰めていく手法です。具体的には、下のような図式を用います。

(出所:桐山聰、英崇夫「思考支援ツールを使った学生自身によるプロジェクト活動の自己評価」工学教育 55-4(2007) p71)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsee/55/4/55_4_4_70/_pdf p71


マンダラチャートと少し似ていますが異なるのは、問題に対して「5W1H」という、アプローチの方向性が具体化されていることです。

使い方はマンダラチャートと同様です。基本パーツの真ん中に問題や目標を書き、その周囲を「5W1H」で埋めていきます。
さらに、この「5W1H」を満たすためにはどのような5W1Hが必要なのか?を突き詰めていくことで、この思考支援ツールは下の図のように無限に広げていくことができます。

(出所:桐山聰、英崇夫「思考支援ツールを使った学生自身によるプロジェクト活動の自己評価」工学教育 55-4(2007) p71)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsee/55/4/55_4_4_70/_pdf p71


なお、この思考支援ツールを作成した桐山聰氏らは、大学生についてこのような所感を得ています*2。

近年、学生が失敗を恐れて積極的に行動を起こさない、ということをよく耳にする。しかし、創成学習開発センターの課外活動である学生プロジェクトの指導や初年次生の授業担当を通して、それとは違った実態が見えてきた。すなわち、学生は、失敗だけでなく成功さえもイメージできないがゆえに本当に何をしてよいかわからない、ということである。
(中略)
事実、筆者が接する学生の多くは目的(あるいは目標)と手段を混同する傾向が顕著である。

仮に目標があったとしても抽象的すぎて、まず何から取り組めばいいのかという具体的なイメージや計画を持てない、それは若い世代に限ったことではないでしょう。

具体的な行動に落とし込んでこそ「目標」は現実味を帯びる

「給与を上げたい」「やりがいを感じたい」。
若手が抱く「目標」はそれぞれです。

しかし「やりがい」とは具体的に何なのか?「成功」とは具体的に何なのか?それを実現するには何が必要なのか?どんな順序で実践していくのか?を突き詰めていかなければ、いつまでたっても具体的な行動に移すことはできません。
一歩を踏み出すことすらできないのです。そのまま業務に忙殺され「何かが違う」「辞めたい」となる可能性も否めません。

一方で大谷選手は、高校生のときから「夢を叶えるために日々やること」あるいは「意識すること」を8マス×8フレーム、つまり64個も持っていたのです。最近でもSNSなどでも審判に丁寧に接したり、試合中にゴミを拾ったりする大谷選手の姿が見られます。よって歴史的な野球選手となりつつある現在も、これらを実践し続けているのでしょう。

ここでは2つのチャートについてご紹介しましたが、これらの図形は今すぐにでも書き始めてみることができるのではないでしょうか。
あるいは、新入社員研修などで利用し、それを1年あるいは数年ごとにその都度見直す、そのような習慣がつけば、常に自分の現在地を確認したり、初心に帰ったりすることもできるでしょう。

よほどの強運の持ち主でない限り、どのような目標も、具体的な行動から始めなければいつまでたっても漠然としたままになってしまうのです。