ジョブ型雇用? 「キャリアの二毛作」? 配属部署を確約? 「脱一律」が進む新卒採用の動向と意義

    新卒採用の手法に変化が生じています。

    中途採用では「ジョブ型雇用」が多くの企業で導入されていますが、新卒でもジョブ型採用を実施している企業が2割程度あり、実施予定と検討中まで入れると4割あまりに上ります。また、希望部署への配属を確約する企業もありますし、無限定正社員としてキャリアを積んだ後にジョブ型に移行する「キャリアの二毛作」のポテンシャルも示唆されるなど、新卒採用の「脱一律化」が進んでいるのです。

    本稿では変わりつつある新卒採用の手法について、動向を探り、その意義を考えます。

    新卒採用のジョブ型雇用導入の動向


    実務経験をもたない新卒とジョブ型雇用はなじまないように思えますが、実際の動向はどうでしょうか。

    まず、新卒を対象にしたジョブ型雇用の導入状況をみていきましょう。図1は、2021年度入社新卒採用に関する、経団連の調査結果です。*1

    なお、この場合の「ジョブ型」とは、以下をイメージしています。

    「業務の遂行に必要な知識や能力を有し、特定の職務において、活躍してもらう、専門業務型・プロフェッショナル型に近い採用区分」

    したがって、欧米型式の「ジョブ型」とは違い、特定の仕事やポストが不要になったら雇用自体がなくなることは想定されていません。

    図1:新卒のジョブ型雇用の実施に関する割合(2021年度入社)
    出典:一般社団法人 日本経済団体連合会「2021年度入社対象 新卒採用活動に関するアンケート結果 ーコロナ禍における採用活動の状況と今後の見込みー」(2020年9月15日)p.12
    https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/080.pdf

    図1から、新卒のジョブ型雇用を既に実施しているのは22.7%、実施を予定している企業が1.2%、検討中が16.3%で、これらを合わせると40.2%に上ることがわかります。

    なお、ジョブ型採用を実施している職務は、「システム・デジタル・IT」「研究・開発」「営業」「経理・財務」「法務・知財」などです。

    次に、2023年度入社新卒採用に関する民間企業の調査結果から、企業規模とジョブ型雇用導入との関係をみてみましょう(図2)。*2

    図2:企業規模別2023年入社新卒採用でのジョブ型雇用の導入状況
    HR総研(2022)「2022年&2023年新卒採用動向調査 結果報告2 ターゲット層が変化する企業が3割、「ターゲット層の変化」の要因は?」(会員限定記事)
    https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=327

    大企業では「導入する」が26%で、企業規模が小さくなるほど「導入する」の割合が低下し、中堅企業では21%、中小企業では13%となっています。

    新卒採用のジョブ型雇用導入の背景


    次に、新卒採用でジョブ型雇用を導入する企業が現れてきた背景を探ります。

    必要なスキルと社員のスキルとのギャップ

    これまで入社後の育成が前提だった新卒採用でもジョブ型雇用が導入されるようになったのは、グローバル競争で生き残るために、企業が若い社員にも、より専門的な能力を求めているからだとみられます。*3

    実際、4割以上の企業は、「技術革新により必要となるスキル」と、 「現在の従業員のスキル」との間のギャップを認識しています。*4
    そして、そのギャップが顕在化する時期に関しては、既に顕在化していると考えている企業が43%で最も割合が高く、次いで「2年以内」と「3~5年以内」がどちらも22%となっています(図3)

    図3:スキルギャップが顕在化する時期
    経済産業省(2022)「未来人材ビジョン」p.38
    https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/mirai_jinzai/pdf/20220531_1.pdf

    こうした状況から、全社的にジョブ型を進めている企業もあります。
    例えば富士通は、国内グループ企業の管理職限定だったジョブ型雇用を、2022年度4月から一般社員約45,000人に広げました。*5
    同社では社員1人ひとりが「職務記述書」に仕事内容やスキルを記入し、年齢や勤務時間ではなく、能力や成果を重視して報酬や昇進を決めます。

    ジョブ型を全階層に拡大したのは、社員が自主的に自分の仕事内容や身につけるべきスキルについて考えるようになることを目指しているためです。
    これは2019年から取り組んでいる人事制度改革の一貫で、同社の時田隆仁社長は、「会社を変えるには人事制度を改める必要がある」と述べています。

    人事戦略と経営戦略との乖離

    上述の時田社長の発言は、日本企業が抱いている「人材マネジメントの一番の課題」につながります。
    それは、「人事戦略が経営戦略に紐付いていない」こと(図4)。*4

    図4:日本企業が感じる人材マネジメントの課題
    経済産業省(2022)「未来人材ビジョン」p.51
    https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/mirai_jinzai/pdf/20220531_1.pdf

    逆にいうと、日本企業は人材戦略と経営戦略を紐づけ、より高い専門性やスキルを備えた若い人材を確保し、育成していく必要があるのです。

    「キャリアの二毛作」


    内閣府規制改革会議「雇用ワーキンググループ」の座長を務めた慶應義塾大学の鶴光太郎教授も、企業の目指すべき方向性は、社員自身がキャリアについて自律的に考えて成長し、それをイノベーションや業績につなげていけるような環境を整えることだと述べています。*6

    ところが、従来の無限定正社員の仕組みでは、ポストが空くと社員は玉突き式にあちこちの
    部署へと異動させられるので、自律的なキャリア開発自体が見こめません。
    しかし、人事改革が必要だといっても、教育制度は簡単には変わらないため、特に文系の新卒採用では、入社時点でジョブ型雇用を導入するには困難を伴います。

    そこで、大学などで身につけた専門性と職能が一致している学生は新卒入社の段階からジョブ型雇用で採用する一方、それが難しい新卒は、最初は無限定正社員で働き、キャリアを積み自身の強みを認識した上で、40歳頃にジョブ型に転換していく「キャリアの二毛作」が現実的だと同教授はいいます(図3)。

    図5:「キャリアの二毛作」モデルのイメージ
    出典:パーソル総合研究所(2020)「日本的ジョブ型雇用における人事機能の課題」
    https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/interview/i-202010200001.html

    希望部署への配属を確約


    2023年度入社の新卒社員から、希望する初期配属職種を確約する企業もあります。

    パナソニックホールディングスは、従来の職種を問わない採用の他に、大学での専攻や専門スキルを生かすために、希望するグループ会社や職種を選択することができる「コース別採用」を導入しています。*7
    応募できる職種は、「営業・営業企画」「商品企画」「カスタマーサービス」「システムエンジニア」など多岐にわたります。

    また、アフラック生命保険株式会社は、中期経営戦略の1つとして「多様な人財の力を引き出す人財マネジメント戦略」を掲げています。*8
    入社時の配属部署を確約する「WING制度」は、その一環として導入されたものです。

    同社では、キャリア初期の数年間は複数の部署を経験しながら、コアビジネスへの理解を深め、適性を見極める時期と位置づけています。
    「WING制度」は、チャレンジしたい領域が明確で、なおかつその領域と希望部署の受け入れニーズが合致する新卒入社希望者が対象です(図6)。

    図6:新卒社員の人財キャリアイメージ
    出典:アフラック生命保険株式会社(2022)「ニュースリリース 新卒採用者の初期配属を確約する「WING制度」の導入について」
    https://www.aflac.co.jp/news_pdf/20220427.pdf

    この制度を利用する人は、同社での就業を具体的に意識しながら卒業までの学生生活を送ることができ、入社前の時間をより有意義に過ごすことが可能になるというメリットもあると同社は考えています。

    新卒採用のジョブ型雇用導入の意義


    最後に、新卒採用のジョブ型雇用導入の意義を整理します。

    これまでみてきたように、企業側にとって新卒採用でジョブ型雇用を導入するメリットは、人材戦略と経営戦略を関連させ、即戦力となる人材や、グローバル競争で生き残るために必要な専門的な能力やスキルをもった人材を確保し、育成していくことにあります。

    一方、新卒の社員にとっても、自身の能力やスキルの強みを生かし、自律的にキャリア形成ができる環境は魅力的です。

    ただし、ここで考えなければならないことがあります。
    それは、日本の「従業員エンゲージメント」は他の国々に比べて非常に低いという現実です(図7)。*4

    図7:従業員エンゲージメントの国際比較(左:世界全体 右:東アジア)
    経済産業省(2022)「未来人材ビジョン」p.51、p.38、p.33
    https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/mirai_jinzai/pdf/20220531_1.pdf

    ここでいう「エンゲージメント」とは、「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」といった意味です。*4

    前述の鶴光教授は、ジョブ型への転換期においては、社員が自分のライフスタイルやライフサイクルに合わせて、多様な働き方の中から自分にふさわしい働き方を選択できることが非常に重要だと指摘しています。*6
    したがって、社員が自分の希望によってジョブ型と無限定正社員を相互に転換できるような制度設計が必要だというのが同教授の見解です。

    そう考えると、制度設計や採用手法を検討する際、企業の論理やメリットを最優先させるのではなく、それらを雇用者のメリットと連動させていくような視点をもち、例えば部署によって採用方式を変えたり、複数の選択肢を用意するなど、柔軟な取り組みを目指すという方向性も理にかなったものといえるでしょう。

    新卒採用の「脱一律」の動向をふまえ、これを機に、改めて自社の新卒採用の在り方を見直してみてはいかがでしょうか。

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    著者:横内 美保子
    博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
    高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
    パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

    *1
    一般社団法人 日本経済団体連合会「2021年度入社対象 新卒採用活動に関するアンケート結果 ーコロナ禍における採用活動の状況と今後の見込みー」(2020年9月15日)p.12
    https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/080.pdf

    *2
    HR総研(2022)「2022年&2023年新卒採用動向調査 結果報告2 ターゲット層が変化する企業が3割、「ターゲット層の変化」の要因は?」(会員限定記事)
    https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=327


    *3
    読売新聞オンライン(2022)「希望部署への配属を確約、年収710万円2年間保証…新卒採用の「脱一律」強まる」(2022/06/07 09:18)
    https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220607-OYT1T50016/2/

    *4
    経済産業省(2022)「未来人材ビジョン」p.51、p.38、p.33
    https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/mirai_jinzai/pdf/20220531_1.pdf

    *5
    読売新聞オンライン(2022)「富士通「ジョブ型雇用」全従業員の9割に拡大…社長「やりたい仕事を自ら選択」(2022/06/07 08:02)
    https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220607-OYT1T50008/

    *6
    パーソル総合研究所(2020)「日本的ジョブ型雇用における人事機能の課題」
    https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/interview/i-202010200001.html

    *7
    パナソニックホールディングス「新卒採用 選考コースinfomation」
    https://recruit.jpn.panasonic.com/newgrads/information/

    *8
    アフラック生命保険株式会社(2022)「ニュースリリース 新卒採用者の初期配属を確約する「WING制度」の導入について」
    https://www.aflac.co.jp/news_pdf/20220427.pdf