企業の不正で「二次不祥事」を起こさないために 知っておきたい「公益通報者保護法」

    企業内で起きた不祥事については、上層部や経営陣が知らないうちにメディアなどで急に明るみに出てしまう、ということも少なくありません。

    この場合、経営陣はあわてて記者会見を開き、事実調査をし、真実を公表しなければなりませんが、この初動を間違うと「二次不祥事」としてさらに悪印象を広げてしまうことがあります。

    そこで重要なのは、不正を素早く察知することです。
    そのために知っておきたいのが「公益通報者保護法」です。

    「内部告発」と「内部通報」の違い

    メディアなどでよく「内部告発」という言葉を耳にしたことのある人は多いでしょう。企業の不正の実態を、社員や関係者がメディア・関係官公庁に告発するというものです。
    経営陣よりも先に自社の不正が外部の知るところになり、ある日突然会社にメディアが押しかける。
    そんな光景につながるのが「内部告発」です。

    これに似た言葉に「内部通報」があります。しかしこちらは意味が全く異なります。そして、組織として目指したいのは「内部通報」の制度を整備することです。

    内部通報とは、不正を見かけた社員らが社外に情報を漏らすのではなく、事前に社内の担当窓口に通報するという仕組みです。もちろん、そのための窓口を設置し機能させる必要があります。

    内部通報制度があることで企業としては外部に知られる前に不正を発見し、対応を考えることができるメリットがあるのです。
    しかし、中小規模の事業者では内部通報制度の導入が進んでいないという現状があります(図1)。
    図1 内部通報制度の普及・整備状況(出所:「内部通報制度の実効性向上の必要性」消費者庁)
    https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/pr/pdf/pr_191018_0003.pdf p18


    その理由として多いのは、「どのような制度なのかが分からない」「導入のしかたが分からない」などです(図2)。
    図2 内部通報制度の未導入理由(「内部通報制度の実効性向上の必要性」消費者庁)https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/pr/pdf/pr_191018_0003.pdf p18

    また、内部通報制度の根拠になっている「公益通報者保護法」への認知度が低いことも影響しているでしょう。
    そこでまず、公益通報者保護法についてご紹介します。

    公益通報者保護法と内部通報制度

    公益通報者保護法とは、文字通り公益のために自社の不正に関する通報をした人が、通報を理由に解雇などの不利益な扱いを受けることがないようにするための法律です。
    「誰が」「どこへ」「どのような内容の」通報をすれば保護されるかというルールが明確にされています。

    公益通報者保護法のあらまし

    まず、公益通報者保護法についてご紹介します。
    公益通報者保護法が対象としているのは、以下のような法律に反する行為を通報した人についてです。

    なお、これは一例です。企業の不正は消費者の被害を拡大させることに繋がるという考え方から、約500本の法律で規定される犯罪行為や過料対象行為が通報の対象になっています*1。
    図3 公益通報者保護の対象となる法律違反の例「公益通報ハンドブック」消費者庁
    https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_220705_0001.pdf p7

    誰がどこに通報することで保護される?

    保護の対象となる通報者は、「労働者等」「退職者」「役員」で、「労働者等」には正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーなどのほか、公務員が含まれます。「退職者」は、退職や派遣終了後1年以内の人、「役員」とは取締役、監査役など法人に従事する人のことです。また、取引先の労働者、退職者、役員も対象です*2。

    そして、法律では通報先として以下の3つが定められています*3。

    ・事業者内部
    ・行政機関
    ・報道機関、消費者団体、労働組合など

    ただ、ここでは行政機関や報道機関など、外部への通報も含まれています。

    内部通報制度の特徴

    上記の中で、事業者内部に通報窓口や制度を設け、労働者らから不正に関する情報を受け付けるのが「内部通報制度」です。

    具体的な受付先としては、事業者内の内部通報窓口や、事業者が契約する外部の法律事務所・通報専門業者などが考えられます。また、管理職や上司も通報先となる場合があります。

    しかし企業内部に通報先がない、あるいは対応してもらえないために、不正を見かけた労働者らが、いきなり「企業の外」に実情を知らせてしまう=「内部告発」につながることは珍しくはありません(図4)。
    図4 不正を知ったときの最初の通報先(出所:「内部通報制度の実効性向上の必要性」消費者庁)
    https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/pr/pdf/pr_191018_0003.pdf p22


    その理由としては、「通報しても十分対応してくれない」「不利益な取り扱いを受けるおそれがある」というものが挙げられています。そして実際、通報しても状況が改善されない、誠実な対応がなされない場合に、8割以上の人は外部に通報しようと考えます(図5)。
    図5 不正が改善されない等の場合の通報先(出所:「内部通報制度の実効性向上の必要性」消費者庁)
    https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/pr/pdf/pr_191018_0003.pdf p23


    まず不正を内部で見つけ対処するためには、企業内部に信頼できる通報制度を設置し、真摯に対応にあたることが最も重要です。

    企業を襲う「二次不祥事」にも注意

    さて、不正や不祥事が発生したとき、企業が初動を間違えることで「二次不祥事」が起きることも考えられます。
    最初の不祥事についてのメディアへの対応が不誠実なために、不祥事がさらに炎上するという事態です。

    会社の対応を不満に思った別の社員が外部に情報を漏らし、メディア側に情報をリードされてしまうことさえ考えられます。すると、さらに状況は悪化し、世間から企業に向けられる目は一層厳しいものになります。

    このような事態に陥らないためにも、不正はまず内部で把握し、事実調査を重ね、いつでもメディアや取引先に対応できるという形を作っておくことは重要なのです。

    不正はいつどこで起きてもおかしくないという危機感を持って、平時からシミュレーションをしておくことも有効でしょう。

    社内に通報のルートがあること、通報内容には真摯に向き合う事、通報した社員を守ること。
    この3つを徹底できている企業であることは、内外にとって大きなアピールにもなります。

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    著者:清水 沙矢香
    2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
    取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

    *1、3
    「組織の不正を未然に防止!通報者も企業も守る『公益通報者保護制度』」政府広報オンライン
    https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201701/4.html

    *2
    「公益通報ハンドブック」消費者庁
    https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_220705_0001.pdf p3