「職のミスマッチ時代」がやってくる 2035年の働き方はどうなっている?

    終身雇用か、外部の人材の積極活用か。
    人手不足を解消するための手法として、選択肢は大きく分けてこの2つの方向性ということになるでしょう。

    一方で企業としては、生産性を度外視するわけにはいきません。
    そこで、日本の労働力についての将来推計から考えてみましょう。

    2020年代後半に訪れる「職のミスマッチ」時代


    IoTやAIといった技術の進歩によって、国内で求められる労働者像は大きく変わりつつあります。
    三菱総合研究所の試算によると、2020年代後半以降は人材の需給に大きなギャップが生じ、生産職・事務職で人材過剰となる一方で専門職の人材が大きく不足する見込みです(図1)。
    図1 2020年代後半からの「職のミスマッチ」
    (出所:「技術革新(AI等)の動向と労働への影響等について」厚生労働省資料)
    https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000476534.pdf p1

    よって、長期雇用を続けるにしても副業/復業人材を活用するにしても、その内容は今まで通りとはいきません。

    仕事の性質ごとに過剰・不足をみると下のようになっています。

    まず、仕事の性質を実際の職種に当てはめたのが下の図です(図2)。
    図2 2015年の人材ポートフォリオ
    (出所:「技術革新(AI等)の動向と労働への影響等について」厚生労働省資料)
    https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000476534.pdf p2


    そして、各領域の2030年の人材過不足は下のようになるというのが三菱総合研究所の推計です(図3)。
    図3 2015年の人材ポートフォリオ
    (出所:「技術革新(AI等)の動向と労働への影響等について」厚生労働省資料)
    https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000476534.pdf p4


    今後需要の減る職種の社員を多く抱えればいずれ負債人材となり経営に影響を与えます。一方で需要の増加する職種の社員を早急に育成していけば企業の持続性が高まる可能性がある、ともいえます。

    終身雇用を前提に需要の増加する職種の人材を社内で育成するのか、外部の即戦力を導入するのか、日本企業は選択を求められている状況です。

    終身雇用の本質と現代社会


    さて、雇用形態の在り方が多様化し、さまざまな形で人材を取り入れられるようになったのが現代ですが、ここで一度終身雇用の根本を振り返ってみたいと思います。

    日本で終身雇用が本格普及しはじめたのは戦中・戦後のことです*1。

    当時の日本は労働者の流動性が高い状態でしたが、日中戦争が始まると労働者の移動はさらに激しくなります。働き手となる成年男性が徴兵される一方で軍需産業は増産を迫られるようになり、労働力がますます不足していたことが背景にあります。

    熟練工の引き抜きなども大問題になり、とうとう国が労働統制に乗り出しました。限られた労働力の配置と動員、賃金体系を国が管理するようになったといういきさつです。

    そして戦後の混乱・貧困にあった労働者がまず生活の安定を求めるようになったこと、そしてその後の高度経済成長を背景に年功序列、終身雇用が定着していきました。

    終身雇用は、高度経済成長を背景にしていたからこそ中小企業が労働者の安定を支えることができていた時代の産物だといえるでしょう。ものを作れば作るだけ収入になる、という製造業中心の時代でもありました。

    しかし現代はビジネスが多様・複雑かつ回転率の高いものになっているうえ、高度経済成長のような先行きは予想できない状況です。終身雇用を続けているのは従来の慣習だから、というだけの理由であれば、何らかの方向転換を迫られるのは当然のことです。

    2035年の働き方とは


    現代、産業の基幹は製造業からサービス業へ、そしてITへとシフトしています。
    人口の減少と市場の縮小という戦後とは真逆の状況で、効率化も求められています。また、新型コロナの流行を機に、テレワークなどの「新しい働き方」が急速に普及しました。

    こうした流れの延長で、厚生労働省が「働き方の未来 2035」というレポートを公表しています。
    2035年の人々の働き方は、このようになっているとの予測です。一例としては、このような変化が紹介されています*2。

    ・空間や時間にしばられない働き方に

    もちろん、工場での作業のように実際にその作業現場に人がいなければならないケースもあるだろう。しかし、そのような物理的な作業の大半は 2035 年までにはロボットがこなすようになっているに違いない。
    (中略)
    2035 年には、各個人が、自分の意思で働く場所と時間を選べる時代、自分のライフスタイルが自分で選べる時代に変化している事こそが重要である。

    ・自由な働き方の増加が企業組織も変える

    2035 年の企業は、極端にいえば、ミッションや目的が明確なプロジェクトの塊となり、多くの人は、プロジェクト期間内はその企業に所属するが、プロジェクトが終了するとともに、別の企業に所属するという形で、人が事業内容の変化に合わせて、柔軟に企業の内外を移動する形になっていく。その結果、企業組織の内と外との垣根は曖昧になり、企業組織が人を抱え込む「正社員」のようなスタイルは変化を迫られる。

    ・働く人が働くスタイルを選択する

    働き方の選択が自由になることで、働く時間をすべて一つのプロジェクトに使う必要はなくなる。複数のプロジェクトに時間を割り振るということも当然出てくる。(中略)その結果、個人事業主と従業員との境がますます曖昧になっていく。組織に所属することの意味が今とは変わり、複数の組織に多層的に所属することも出てくる。

    ・働く人と企業の関係

    企業の多様化が進むなかで、一部の大企業はロイヤリティを有した組織運営を継続していくだろう。しかし、これまでのように企業規模が大きいことのみでは働く人のニーズを満たすことはできず、働く人にどれだけのチャンスや自己実現の場を与えるかが評価されるようになる。

    働く人と企業の関係が大きく様変わりすることを示しています。特定の場所、プロジェクト、企業にもっぱら属することの価値が薄れるという指摘でもあります。いまふたたび、人材の流動性が求められているともいえます。

    製造業にも転換点


    先述のとおり、終身雇用は戦後の高度成長が可能にした制度といえます。
    そして、生産性についての関心が高まる中、このような調査結果もあります。

    終身雇用と異なる形態として注目されている「ジョブ型雇用」に興味を持った企業にそのきっかけをたずねたところ、このような回答が得られています(図4)。
    図4: 企業がジョブ型雇用に関心を持ったきっかけ
    (出所:「企業人事部門アンケート 「ジョブ型雇用の実態調査」の結果概要」三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
    https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2021/11/cr_211116.pdf p3


    雇用の形の変化に関心のある企業が、人材についてどのような見方をしているかがわかります。
    特に製造業では、「職務価値と報酬が見合っていない社員がいる」が51.0%、「中期的な人件費管理の必要性を感じている」が49.0%と、効率を重視する向きがあります。
    終身雇用の礎を築いてきた製造業も、ここにきて転換を迫られています。

    「なんとなく」で続いてきた終身雇用の在り方も、その歴史や今後の見通しに照らせば、改めて見直す必要がありそうです。

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    著者:清水 沙矢香
    2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
    取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

    *1
    「終身雇用制はいつからあるの?」国立公文書館
    https://www.jacar.go.jp/glossary/tochikiko-henten/qa/qa22.html

    *2
    「働き方の未来 2035」厚生労働省
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000133449.pdf p8-11