「できる人財」と特性の関係

    「優秀な人財」と「できる人財」との違い


    「できる人財」と特性の関係について考える前に、先ずは、企業にとって望ましい従業員像について整理する。

    企業にとって望ましい従業員像は、「優秀な人」「できる人」と一括りに表現される場合が多い。また、優秀な「人」、優秀な「人材」、優秀な「人財」と、従業員の表現も「人」「人材」「人財」と3通りの表現がなされている。一言で、優秀な従業員と言っても、様々な表現があり、その表現ごとに、その従業員に対する見方の基準や期待内容も異なる。

    イー・ファルコン社は、eF-1G(エフワンジー)という適性診断を軸に、従業員というヒトとしての個人自体を人財視点から科学的に定義していくことを重視している。

    結果、上記のような従業員像の区分についても関心が高い。このヒト自体の定義を重視する視点から言うと、「優秀な人」と「できる人」とは異なるものと考えている。また、「人」「人材」「人財」についても同様である。

    また、細かな定義は置いておいて、「優秀な人」には狭義と広義の2通りの概念がある。狭義は、ポテンシャルが高い人であって、まだその高いポテンシャルが実績として発揮されていない人を示す場合である。主に新卒がこのカテゴリーの対象になる。広義の場合は、次に述べる「できる人」と先の狭義の「優秀な人」を含めた総称である。

    「できる人」とは、高いポテンシャルがあることは前提で、その高いポテンシャルが具体的にすでに発揮されている実績者を言う。

    当然、狭義の「優秀な人」と「できる人」の両者では、特性上共通点と差異がある。この差異が、優秀ではあるが実績を作るまでに至らない従業員の特性上の改善課題に結びついている場合が多い。このことは、狭義の「優秀な人」と「できる人」の分岐点を特定することで、課題克服に向けた打ち手の可能性が具体化できることを意味する。このような打ち手の導出ができる点に、適性診断を使うことの意義がある。

    一方、「優秀な人」「できる人」で使う「人」とは後述する「人材」と「人財」を包含した一般的な表現を言う。「人材」とは、経営戦略や実績づくりにおいてのミッション達成のパーツ(部品素材)のような位置づけの人と言える。「人財」とは、企業成長の原動力になる資産的な位置づけの人と言える。換言すると、定められた手順に従い、想定通りの成果/言ったことを粛々と完遂すること留まりの人が「人材」であり、臨機応変な手順で期待以上の成果やシナジー効果を生む人が「人財」であると言える。

    このように、従業員の分類から、各従業員に対する育成対策まで一気通貫で活かせることが適性診断の意義でもある。

    適性診断とは上記のように出た結果の活用の仕方にこそ本領がある。別な言い方をすれば、得られた結果や評価から一気通貫して、打ち手が導かれない適性診断は、実務上、受けた従業員にとっても、結果評価を受け取った側にとっても、あまり意味がない。

    今回は紙面の制約上、上述全ての従業員分類についての説明は割愛する。ここでは、一例として、「できる人財」について、考察を深めていく。

    「できる人財」とはどんな人物か?


    弊社の適性診断の分析から得られた「できる人財」について少し補足する。

    「できる人財」とは、ミッションを周囲と協働しながら遂行することで、短期はもとより、中長期においても社全体に影響を与えながら成功を前提に当初のミッションを広げていくタイプである。仕事の進め方の必要性から、幅広い知識を自在に組み合わせて活用できる。視野を広く取る傾向が強いので俯瞰的な見方ができ、他人とのかかわり方もオープンである。

    一般に、メンバー間から一緒に組みたいと思わせるタイプである。

    比較までに「できる人材」とは、短期的視点からミッションを自身が確実に遂行できる粒度に絞りこむことで成功を勝ち得る人である。このタイプは、ミッションに必要な限られた領域の知見が高く、達成に向けた手段にこだわりを持たない傾向がある。

    自己ミッション最優先なので、他人とのかかわり方も自己中心的となりやすい。結果、このタイプには、人を踏み台にして成果を上げるタイプも含まれる。

    同じようにミッションを達成できる従業員であっても、人材と人財とでは仕事の進め方や周囲との関係性づくりにおいて差がある。そしてこの差を可視化することは、リソースマネジメントの観点からも有益である。

    総論としての「できる人財」は上記のようなものである。
    ただ、上記のような特性を、統計学的に測定可能な水準に落とし込んで客観的に定義することは存外難しい。

    一例を言うと、ミッションを周囲と協働しながら遂行するためには、理解力や相手に対する受容性/寛容性、共感性含めた傾聴力が不可欠である。また、短期はもとより中長期においても社全体に影響を与えながら成功前提で当初のミッションを広げていくには、計画構想/立案力や目的に対する理解の深さなどが必要となる。

    加えて、幅広い知識を自在に組み合わせて活用するためには、学習意欲や知的好奇心による広範な領域に対する向上心が前提となる。視野を広く取るためには、プロジェクトの本質を深く知る力は必須となる。他人とのかかわり方がオープンであるためには、表面的なコミュニケーション力に加え、人とのコミットメントを深める力は欠かせない。

    「できる人財」の要件を上げると、その要件の測定法が難しいことが分かる。

    さらに言えば、一言で「できる人財」と言っても、いくつかのタイプがある。人である以上、その人ごとに特性差があり、この差が「できる人財」のタイプになる。

    総括的に「できる人財」を定義できても、現実の「できる人財」にタイプがある以上、実際にいる「できる人財」を客観的に見極めるためには、特性の機微を測定する方法は不可欠であるが、これが見つけにくい。

    事実、個人特性に合わせた「できる人財」の選別や登用の客観化や可視化が課題点となり、リソースマネジメントの強化を困難にしている。

    今回のコラムでは、この「できる人財」(≠人材)を、行動と特性の関係から可視化する方法の一例を提示する。最後に、適性診断などの統計学的手法が間に合わない場合の、観察から「できる人財」の予測ができる緊急避難的な簡易法を紹介する。

    「できる人財」の行動と特性の関係


    「できる人財」は、行動とその背景にある特性の組み合わせパターンから規定できる。

    「できる人財」の行動には大きな特徴が2つある。具体的には、

    • 敬意と共感をもって人の話を聴ける傾聴力
    • 具体的な事例やデータをもとに相手が理解しやすいように、自分の提案を伝える技術としての説得力

    この2点が共に高いことである。

    一部繰り返しになるが、「できる人財」とは相手の話を良く聴き(傾聴)、お互いに意味のある会話に集中して相手の理解と態度変容を導ける(説得)タイプの人ということになる。

    傾聴と説得を適切に組合せる力は、現実に起こりうる様々なハードルを越えるのに必要な新しい解決法や方向性の発見、いわゆる弁証法的課題解決の原動力に等しい。

    そしてこの原動力は、

    • 自分自身への信頼(≠自惚れ/慢心) 
    • 新旧織り交ぜて受け入れ・吸収できる未来志向

    という2つの特性の高さで決まる。

    まとめると図1のように、納得感を与える対応と持続的な自己変革志向を共に持つ人が、「できる人財」の特徴と言える。*1

    colum1-1

    問題は、この構造をどのように測定し可視化するかである。このためには越えなければならないハードルがいくつかある。紙面の制約上、大きなハードルとなる一例についてのみ触れる。

    問題の一つは、個人別の行動に紐づく特性をどのように測定し、評価し、可視化するかという点である。ビジネスの適性診断を前提とした場合、個人の特性と仕事上の行動とが一元的に結びついている必要がある。

    Aさん(=個人)はこの特性に当てはまる(=一般論)。だからAさんは、このような行動をとる。という一般論をそのまま個人に当てはめる式の適性診断は、乱暴である。とはいえ、個人の特性と仕事上の行動とを一元的に結びつけた適性診断は少ない。

    適性診断の根拠の一部となる特性分類で現在最も多く利用されている理論は、1990年代初頭に提唱されたビッグファイブ理論である。「外向性」「調和性」「誠実性」「神経症的傾向」「経験への開放性」の5つの特性の強さの組合せから導くモデル(コスタ&マックレーのモデル)として有名である。

    この理論は、パーソナリティを知るには非常に実績のあるモデルであるが、仕事に対する取組みに現れる特性に絞り込んで切り出すと、しばしば不整合を生むことがある。

    これは、先ほど触れた、Aさんの純粋なパーソナリティ由来の特性はこうだから、その純粋なAさん自身の特性から推し量ったら、このような行動をとるはずである。という一般論を個人に当てはめる式の適性診断となってしまっているために起こると考えられる。

    弊社は、この一般論を個人に当てはめる式の適性診断ではなく、直接的に個人の特性と仕事上の行動とを一元的に結びつけた適性診断こそが、今企業に求められていると考えている。

    もちろん、「できる人財」の具体的要件は、企業ごとに異なるものである。したがって、個人の特性と仕事上の行動とを一元的に結びつけた「できる人財」要件の中身は、当然企業ごとに異なる。だからこそ、求められる適性診断には、様々な企業で活用できる計画的で繊細な診断設問やその分析法が求められる。

    企業ごとで「できる人財」の要件が変わるが、主に変わるのは業務遂行のパターンではなく、その従業員が持つソフト面である。

    ソフト面で重要なのは仕事に対する取り組み姿勢にかかわる特性である。必要な適性診断は、この企業ごとに変わる特性の多様さを的確にとらえられる診断モデルが作れることである。

    行動にかかわる主な特性を具体的に例示する。

    「できる人財」として、周囲と協働しながら最短で当初のミッションをより広い形で成功裏に導くには、先ず様々な情報を取り込むことである。次いで、それを咀嚼して適切なアウトプットとして送りだす。

    このインプットとアウトプットのポンプ兼フィルターとなるのが、プロジェクトの本質を深く知る力である。図2に示したように、この本質を深く知る力は、「できる人財」に不可欠な、4つの要素を束ねる要となる。

    4つの要素とは、

    1. 自己の計画についての構想力/立案力を支える源となる有能感を持ちづけられる特性
    2. 傾聴力を軸に人と深い関係を築ける特性
    3. 強い知的好奇心の特性から導かれる学習/向上心
    4. 自分の意図を的確に伝えるのに向いている特性に支えられた高いコミュニケーション力

    である*1。

    これら4つの要素が有効に機能するためには、それぞれの要素にかかわるインプット情報とアウトプット情報が適切かつ綿密に連動している必要がある。

    「できる人財」であるためには、様々なインプット情報を適切に取り込み、必要なアウトプットを提供する循環が担保されている必要がある。

    この循環機能を支えるのが個人特性である。

    例えば、コミュニケーション力を例にとると、相手の意図・背景を理解できる特性、自分の意図を的確に伝えられる特性、気持ちや状況を察せられる特性の3特性があると、互いの情報交換が深まり、結果インプット情報はより有益なものとなる。

    このインプット情報から、人と深い関係を築ける特性やかかわりを広げられる特性の2特性が向上するので、アウトプット情報の品質が高まるという循環が生まれる。

    他の要素も、それぞれに紐づく特性群の間で固有のインプット-アウトプット生成の循環が生まれる。そして、この循環群は企業ごとに固有のパターンを示すので、結果、「できる人財」の特性差が企業間で生まれる。

    前述した従業員の分類から、各従業員に対する育成対策まで一気通貫で活かせる適性診断とは、より具体的に言うと、自社におけるこのような4要素におけるインプット-アウトプット生成の循環状況の可視化ができる適性診断ということになる。

    誤解を生まないために繰り返すが、「できる人財」の基本構造は図2に示された構造であるが、そこに関わるインプットやアウトプットを支える要件は、企業ごとに変わる。

    colum1-2

    この構造をもとに、企業ごとにより個人ベースに落とし込んだ適性診断カルテが用意できれば、カルテ情報から計画的な育成を、個人ベースにきめ細かく立案・実行できるヒューマンリソースマネジメントが現実化する。

    最後に、「できる人財」の見当が付けられる緊急避難的な簡易法を紹介する。その方法とは、ホワイトボードを活用したファシリテート力から診断する方法である。

    この診断法の結論を言えば、できる人財は発話者の意見の趣旨を変えずに、かつ、他の意見内容との相対的な差や関係が分かるような視覚的な板書をする。板書の際、適宜確認とそれに対する自己の提案や補足説明を入れる。最終的に、各人の意見の論点がホワイトボードに体系的に可視化して整理されていく。

    このような過程を通して、参加者は、ホワイトボード上の箇条書きや図表に啓発される。そして、ファシリテータの時々のさりげない提案や補足説明を織り込みながら、会議の意思決定に参加することになる。ファシリテータにより文字通り衆知を集めた会議となり、課題に対する最善または最適な解決策の方向性が導出/創出され、合意形成に至る。

    この合意の立役者がファシリテータであることは自明のこととして、参加者に認識/支持される。「できる人財」には、このようなファシリテートの技術がある。だからこそ、人をスムーズに巻き込んで結果を出す。

    余談だが、この「できる人財」のファシリテート力は後天的な「技術」としての取得も可能である。この技術の取得を通して、「できる人財」のスキルの育成プログラム*2作りも実は可能である。ファシリテートはリモート、対面を問わず日常の中で使う技術なので、「できる人財」のスキルを広げる上でも、この育成プログラムは取り入れ効果が高い。

    *1.イー・ファルコン社のeF-1G(エフワンジー)を活用した場合のモデル
    *2.イー・ファルコン社でも、「できる人財」のファシリテート技術の育成プログラムを用意しております

    ef-1Gについて
    適性検査「eF-1G」は、株式会社イー・ファルコンが開発・運用する業界随一の網羅性を誇る性格診断です。eF-1Gは100万人以上の受検実績と業界業種を問わず数多くの大手中小企業において個社固有の活躍人材要件の見える化を行なっています。

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    著者:イー・ファルコン 島津 和範
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