労働問題を解決するための手続きは何がある?|種類・特徴・注意点などを弁護士が解説

    労働問題を解決するための手続きの代表例は、労使間の交渉・労働局の個別労働紛争解決制度・労働審判・訴訟の4つです。企業においては、労働者との間でトラブルが発生した場合には、状況に応じて各手続きを使い分けましょう。

    本記事では企業側の視点から、労働問題の解決手続きの特徴や注意点をまとめました。

    労働問題の解決手続き|種類と特徴を解説


    企業と労働者の間の紛争は、以下のいずれかの手続きを通じて解決するのが一般的です。

    1. 労使間の交渉
    2. 労働局の個別労働紛争解決制度
    3. 労働審判
    4. 訴訟

    労使間の交渉|当事者同士で迅速な解決を目指す

    企業と労働者が直接交渉することは、労働問題を解決するためのもっとも基本的な方法です。

    当事者同士で話し合うことにより、迅速かつ柔軟な形で労働問題を解決できる可能性があります。その反面、解決に合意できなければ、他の手続きへ移るほかありません。

    労働局の個別労働紛争解決制度|第三者を介して解決を目指す

    都道府県労働局では、労働関係に関する紛争を解決するための「個別紛争解決制度*1」を提供しています。労働者・事業主のどちらからでも申し込みが可能で、手数料はかかりません。

    個別紛争解決制度は、以下の3つのサポートから成り立っています。特に助言・指導とあっせんについては、中立的な第三者を介した話し合いが行われるのが特徴的です。

    1. 総合労働相談コーナーにおける情報提供・相談
      労働問題に関する法令や裁判例などの情報提供や、助言・指導制度およびあっせん制度についての説明を受けられます。

    2. 都道府県労働局長による助言・指導
      都道府県労働局長が、労働関係に関する紛争の問題点を指摘し、解決の方向性を示した上で、紛争当事者による自主的な解決を促します。

    3. 紛争調整委員会によるあっせん
      弁護士・大学教授・社会保険労務士などの専門家が、公平・中立な立場で労使の主張を確認し、調整を行って労使間の話し合いを促進します。

    労働審判|裁判手続きで迅速な解決を目指す

    労働審判は、地方裁判所で行われる労働紛争の解決手続きです。

    通常の訴訟とは異なり、労働審判は裁判官1名と民間の労働審判員2名で構成される「労働審判委員会」によって主宰されます。
    労働審判委員会は、労使双方の主張を公平に聞き取った上で、まず調停(話し合い)による解決を試みます。調停が困難な場合には、労働審判を行って解決の結論を示します。

    労働審判の期日は原則として3回以内で終了するため、訴訟よりも迅速な解決を期待できるのが大きな特徴です。

    訴訟|徹底的に争う

    訴訟は、裁判所で行われる公開の紛争解決手続きです。

    未払い残業代請求や解雇の無効確認など何らかの請求を行う側(多くの場合は労働者側)が、裁判所に訴状を提出すると訴訟が始まります。
    訴訟では、原告(請求する側)が請求の根拠となる事実を主張・立証し、被告(請求される側)が必要に応じて反論します。裁判所は原告・被告双方の主張を聞いて、原告の請求を認めるかどうかを判決によって示します。

    訴訟の判決が確定すると、その紛争について結論を蒸し返すことはできません(=既判力)。その反面、慎重に結論を検討するために、訴訟手続きは長期間にわたる傾向にあります。

    【企業視点】労働問題の解決手続きの比較


    労働問題を解決するための各手続きについて、以下の3つの観点から、企業側にとってのメリット・デメリットを比較します。

    1. 解決までにかかる時間・コスト
    2. 解決内容の柔軟さ
    3. 二度手間・三度手間になるリスク

    解決までにかかる時間・コスト

    解決までにかかる時間・コスト




    悪 
    労使間の交渉
    労働局の個別労働紛争解決制度
    労働審判
    訴訟

    解決までにかかる時間やコストの負担は、労使間の交渉がもっとも軽く済みます。
    会社内部での検討は必要になりますが、外部機関に提出する書類の作成などは必要ないため、事務作業はそれほど発生しません。
    また、交渉を通じてスムーズに合意を得られれば、数週間程度の短期間で労働問題を解決できる可能性があります。

    労働局の個別労働紛争解決制度は、手数料がかからず、短期間で終了するのが特徴です。あっせんであれば、期日は原則として1回で終了します。
    労使の合意が得られれば、労使間の交渉に次いで早期の解決が期待できるでしょう。

    労働審判の申立てには手数料がかかりますが、訴訟よりは安く済みます。期日は原則として3回以内です。
    ただし、主張書面や証拠書類などを緻密に準備する必要があるため、対応の負担が軽いとは言えません。

    訴訟では慎重な審理が行われるため、1年以上の長期にわたるケースがよくあります。企業としても粘り強い対応が求められる分、どうしても時間とコストの負担が重くなってしまいます。

    解決内容の柔軟さ

    解決内容の柔軟さ




    労使間の交渉
    労働局の個別労働紛争解決制度
    労働審判
    訴訟

    解決内容を柔軟に決められるかどうかという観点からも、やはり労使間の交渉がもっとも有利な方法です。当事者が合意すれば、自由に解決内容を定めることができます。

    労働局の個別労働紛争解決制度も、合意による解決を図るものであるため、労使間の交渉に準じて自由に解決内容を決められます。ただし、紛争調整委員会が提案する和解内容は、法的な相場観を踏まえたものとなります。

    労働審判は、裁判官を含む労働審判委員会が主宰するため、提示される解決案も法律に沿った内容となります。
    ただし調停による場合は、当事者の意思に沿って解決内容を決めることが可能です。また、労働審判による場合でも、訴訟よりは柔軟に解決内容を定めることができます。

    訴訟の判決では原則として、原告の請求を認めるかどうかについてのみ結論が示されるため(一部だけ認めるという判断はあり得ます)、解決の内容はもっとも硬直的です。
    ただし和解による場合は、当事者の意思に沿って解決内容を決めることができます。

    二度手間・三度手間になるリスク

    二度手間・三度手間になるリスク




    訴訟
    労使間の交渉
    労働審判
    労働局の個別労働紛争解決制度

    訴訟の判決が確定すれば、その紛争について結論を蒸し返すことはできないため、終局的に紛争を解決できます。

    その他の手続きについては、いずれも二度手間・三度手間のリスクがあります。

    労使間の交渉については、そもそもコストが小さい上に、労働者側の反応を見て次の手続きを選ぶことができます。そのため二度手間になったとしても、リスクはそれほど大きくありません。

    労働審判については、異議が申し立てられると訴訟へ移行します。そうなるくらいなら、最初から訴訟を提起した方が労力を省けます。
    ただし、労働審判で提出した主張書面や証拠書類を訴訟において再利用すれば、ある程度効率的に対応できるでしょう。

    労働局の個別労働紛争解決制度では、それなりの準備が必要である一方で、労使が合意できなければ解決が実現しません。強制力のある結論は示されないので、二度手間・三度手間になるリスクは大きいと言えます。

    労働問題の解決手続きを選択する際のポイント


    労働問題の解決手続きを選択する際には、労使の主張がどれだけ離れているかを確認することがポイントです。

    労使の主張がそれほど離れていないようであれば、交渉や都道府県労働局のあっせんなどにより、合意に基づく解決を目指すのがよいでしょう。
    これに対して、労使の主張が真っ向から対立している場合には、合意を得ることは難しいので、最初から労働審判や訴訟を選択するのがよいと考えられます。

    また、労働者側の交渉態度を観察することも大切です。譲歩を引き出せそうであれば交渉による解決を、全く譲歩する気配がない場合は労働審判や訴訟による解決を目指すのが適切と思われます。

    労働問題の解決に当たっては、総合的な観点から、会社の対応コストをできる限り抑えられる手続きを選択しましょう。

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    著者:阿部 由羅(あべ ゆら) 
    ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。 
    https://abeyura.com/
    https://twitter.com/abeyuralaw

    *1 参考)厚生労働省「個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)」
    https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/index.html