自己を過大評価してしまう「ダニング=クルーガー効果」 チェック方法はある?

    自分のことを正しく自己認識できず、能力を過大評価してしまう。
    「ダニング=クルーガー効果」という認知バイアスのひとつです。

    この認知バイアスは採用や人事評価の面接にあたっては致命的なマイナス要素と言えます。

    自分自身がダニング=クルーガー効果に陥っていないか、どのようなことをチェックすれば確認できるでしょうか。

    その手段を探ってみましょう。

    ダニング=クルーガー効果とは


    ダニング=クルーガー効果とは、コーネル大学の心理学教授であるデヴィッド・ダニング氏らが提唱し、2000年には「世の中を笑わせ、考えさせてくれる研究」に贈られるイグ・ノーベル賞を受賞したことで話題になりました。

    未熟であったり能力が低かったりする人ほど自己評価が高くなる、という認知バイアスのひとつです。

    ダニング=クルーガー効果が発見されたきっかけは、あるお粗末な銀行強盗のエピソードでした。
    この強盗は日中に2つの銀行を襲いました。しかしマスクをしていなかったために防犯カメラにしっかりと素顔を撮影されており、ほどなくして自宅で逮捕されました。
    その後、なんと警察にこのように話したというのです。信じられないような話です。

    「おかしいな、ジュースを塗ったんだが」

    彼の供述はおよそ理解しづらいものでしょう。
    しかし彼はこのように考えていたのです。

    どうやら彼は、レモンジュースを見えないインクと勘違いしていたようだ。あなたも小学生のときに、レモン汁を絞って「あぶりだし」の実験をしたことがあるはずだ。レモン汁で書いた文字は、火であぶると浮かび上がってくる。それを知っていた銀行強盗は、レモンジュースを顔に塗れば、監視カメラに顔が映らないと考えた。

    彼は「刑務所に入り、世界でもっともばかな犯罪者たちの犯罪史にも名を連ねた」。そりゃそうだろう。

    <引用:PRESIDENT Online「実験で証明!『知識や技能が低い人ほど自己評価が高い』」>
    https://president.jp/articles/-/21413


    自分の浅い知識を過信していた、というわけです。

    このような強盗は稀だと考えてしまうかもしれません。しかしそこに普遍的な教訓があるのではないかと考えたのがダニング氏でした。

    そして、この仮説を証明すべく、ある大学院で心理学を学ぶ学生を相手に、文法や論法、ジョークなどのテストを実施し、各自の得点予想や他の学生たちに比べてどのくらいできたのかを自己評価するよう求めるという実験を行いました。

    すると、このような現象が起きたのです。

    <一番低い得点を獲得した学生は、どれほど自分がよくできたかを大げさに吹聴した。(中略)最下位に近い得点を取った学生たちは、自分の技量を他の三分の二の学生たちより、一段とすぐれていると予測した。
    さらにやはり予想していたことだが、高い得点を獲得した学生たちは、自分の能力をより正確に認識していた。が、(聞いて驚かないでほしいのだが)もっとも高い得点を取ったグループは、他の者たちに比べて、自分の能力を若干低く見積もっていた>

    <引用:PRESIDENT Online「実験で証明!『知識や技能が低い人ほど自己評価が高い』」>
    https://president.jp/articles/-/21413

    ダニング氏の想像を超える結果でもありました。

    人材の「市場価値」の本質


    このようなダニング=クルーガー効果には陥りたくないと多くの人が考えることでしょう。それに、自分が思っていたより結果が出ていなかったとなると、多少のショックを受けることでしょう。そこで自信を喪失してしまう、そのようなことにはなりたくないものです。

    自己認識は正しく持ちたいものですが、一方で客観的な自己評価というのは時として難しいこともあります。そこで、まず以下のことを意識する必要があります。

    自分の価値を決めるのは誰か

    大前提として、自分の能力や価値に点数をつけているのは自分ではないという事実があります。

    人材の市場価値とは、企業が決めるものです。
    厳しい言い方をすれば、「この人にならいくら報酬を払ってもいいか」を決めるのは会社です。自分ではありません。

    自分の価値は自分だけが生んでいるのか

    また、もうひとつ疑うべきは、自分の出した成果は自分だけで生まれたものか?という点です。

    よく「専業主婦(主夫)の働きは時給いくらに相当するか」ということが話題にのぼりますが、これと同じ現象はビジネスシーンでも起きているのです。

    自分の業務を手伝ってくれる人、自分の相談に乗ってくれる人、良いアドバイスをくれる人…

    こういった周囲の人物の存在なくして、本当にその成果を挙げられたのか?これは必要な問いなのです。

    「インフォーマルパワー」という概念


    そこで、自分の能力を知る目安となる「インフォーマルパワー」というものに注目したいと思います。
    インフォーマルパワーとはミシガン大学のマキシム・シッチ准教授が提唱しているものです。自分がどれだけのことをできるのか、できないのかを「見える化」する目安でもあります。

    計算方法はこのようなものです。

    ①自分の仕事をまっとうするために必要な10人の名前を書き出す。自社の人でも社外の人でもかまわない。

    ②書き出した10人のそれぞれについて、どの程度頼りにしているか、なくてはならない存在かを考えて、1点から10点までの点数をつける。大きな価値を提供してくれている人や、ほかの人に代えがたい人には高い点数をつける。提供される価値としては、キャリアに関するアドバイス、感情面でのサポート、日常的な活動の手助け、情報提供、役に立つリソースや人の紹介など、さまざまなものがあることを忘れないように。

    ③同じ事を逆の視点から行う。今度は相手の立場に立って、あなた自身が頼りにされている度合いを想像して点数をつける。あなたが提供する価値の大きさや、他の人が代わりを務める難しさを考慮して点数をつける。過大でも過小でもなく、正直な自己評価に基づく点数をつけることが大切。

    <引用:「肩書きに頼らず組織を動かす方法」ハーバード・ビジネス・レビュー 2021年4月号 p90-91>

    さて、ここで重要なのは②と③のステップです。
    ②と③のスコアの差を計算し、どちらが大きいか。

    もし、自分が与えているだけ、というだけならば、再考する必要があります。
    ただ、逆の結果=、自分は与えられているだけ、という結果が出た場合にも注意が必要です。

    つまり「極端な結果が出た場合」は注意すべきということです。

    冒頭にご紹介したダニング氏らの実験結果と照らし合わせてみましょう。

    まず、「自分が与えているだけ」という結果は、まさにダニング=クルーガー効果に陥っている可能性があります。

    本当にそうなのか?
    この場合、もうひとつの問いを自分に投げかけてみることを筆者はお勧めします。
    それは、「ではなぜ独立しないのか?」ということです。

    理屈めいてしまうかもしれませんが、そこまで「与えているだけ」=「正当な評価をされていない」と感じるのであれば、その能力は会社の中に収まりきれていないということであり、独立でもした方が活きるのではないでしょうか?

    一方で、逆の結果にも注意すべきことがあります。
    「もっとも高い得点を取ったグループは、他の者たちに比べて、自分の能力を若干低く見積もっていた」というのがダニング氏らの実験結果です。
    「自分は与えられてばかりだ」と感じる背景にはこのような「謙虚すぎる」心理が働いている可能性があるのです。

    ダニング=クルーガー効果に陥ってしまっている状況がよくないのは当然ですが、逆もまた、謙虚すぎることによって能力を発揮しきれていない可能性があります。
    本人にとっても組織にとっても不幸なことです。

    「予防」の重要性


    さて、筆者が大手マスコミに所属していた時の、ある先輩の言葉があります。
    マスコミには情報収集にあたって、「肩書き」をはじめ様々な特権のようなものがあります。しかもその特権は、1年目から与えられてしまうのです。

    それだけに、

    「自分が名刺を失った時、どれくらいの人がお願いを聞いてくれるか?自分からTBSという肩書きを取ったら、何人の人が相手をしてくれるだろう?」

    そう考えてみることが重要なのだと、その先輩は問うたのです。

    副業や複業という働き方が浸透している現代では萎縮しすぎるのもまたよくありませんが、これは重要な問いだと筆者は感じています。

    そして、ダニング=クルーガー効果にひとたび陥ってしまうと、その先は極端な2つだと筆者は考えます。

    ・正しい自己認識がないまま会社からの評価に満足できず、認知バイアスをさらに悪化させる
    ・結果を目にして極度に落ち込み、やっていけなくなってしまう

    よって、定期的に自己認識をチェックしていく必要があるでしょう。

    その際に、ここで紹介した「インフォーマルパワー」について考えてみるのは、ひとつの有効な手段になるのではないでしょうか。

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    著者:清水 沙矢香
    2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
    取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。